【7月15日 AFP】(更新)地球温暖化と両極の氷の融解が急速なペースで進んでいる中、米国はなんとしても砕氷船4隻を新造する必要があるとする報告書が11日に公表された。

 米国の科学・技術・医学の3学会からなる全米科学・技術・医学の3学会からなる全米アカデミーズ(National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine)が公表した報告書は、砕氷船1隻当たりの新造費用を7億9100万ドル(約890億円)と見積もっている。

 米国の砕氷船は老朽化した3隻しかない上、そのうち1隻は損傷を受けて使い物にならず、もう1隻は主として科学調査用に設計されている。十分な砕氷船団がないことへの懸念が高まる中、米議会が今回の報告書を要求した。

 米国防総省海軍省の退役准将で、同報告書を作成した委員会の長を務めるリチャード・ウエスト(Richard West)氏は、報告書と合わせて出した声明の中で、「30年以上にわたってさまざまな研究が、米国の存在感、主権、リーダーシップ、調査能力を維持するための砕氷船の必要性を強調してきた」と述べた上で、「他国が氷に覆われた地域へのアクセスを拡張しようと動いている中、米国は国益を守るための装備が不十分な状態だ」と指摘した。

 米沿岸警備隊(US Coast Guard)は現在、ポーラースター(Polar Star)、ポーラーシー(Polar Sea)、ヒーリー(Healy)の3隻の多目的砕氷船を保有している。

 ポーラーシーは2010年、エンジンに深刻な損傷を受け、現在は部品取りに使われている。ヒーリーは主に北極での科学調査に使われており、あと15年ほど運用できる見込みだ。

 報告書によると、「(米国が南極に持つ調査基地としては最大規模の)マクマード基地(McMurdo Station)に単独で補給任務を行う能力があるのは、1976年に建造され、今後3~7年で使えなくなるとみられているポーラースターだけだ」という。

 提案されている計画では、砕氷船の建造は2019年に始まり、1隻目が2024年までに、2隻目が2025年までに就役することになっている。3隻とも科学調査を実施できるようにし、うち1隻はヒーリーを完全に代替するものとされている。同報告書は新造砕氷船4隻のうち3隻を北極のパトロール任務に、1隻を南極のパトロールに使うべきだとしている。

 米地質調査所(USGS)によると、世界の炭化水素の未確認埋蔵量のうち20%以上が北極に存在するとされている。北極では近年、氷の融解により炭化水素や鉱物資源が豊富に存在する場所への航路が開けたことで、ロシアが存在感を強めている。

 ロシアは昨年、北極のガスターミナルからの液化天然ガス(LNG)輸送を目的として、世界最大級・最大出力を誇るといわれる新型原子力砕氷船「アルクチカ(Arktika)」を進水させた。

 ロシア国営原子力企業ロスアトム(Rosatom)が発注したアルクチカは、厚さ2.8メートルの氷を割って進むことができ、2017年末までに就役する見込みになっている。(c)AFP