■爆発する怒り

 金融危機や、目まぐるしさを増すばかりの日常生活からのプレッシャー、さらにはストレスの増幅を招くとされる携帯端末を通じた人々との常時接触──アンガーセラピーの台頭の背景には、このような事情も見え隠れしている。

 セラピー参加者の約70%は男性だ。自らの意志でセラピーを受ける人は約半数いるが、その多くは、長年苦しめられてきた配偶者や親族から説得されての参加だという。それ以外は、裁判所からの命令を受けた人たちがほとんどだ。

 ハーバード大学(Harvard University)、コロンビア大学(Columbia University)、デューク大学(Duke University)の共同調査によると、米国では過去に怒りの感情に任せて衝動的な行動に出た経験があり、さらに銃も所持しているという人が、ほぼ10人に1人の割合に上るという。またハーバード大の別の調査では、同国10代の約3分の2が抑えきれない怒りの爆発を訴えていることも明らかになっている。

 一方、カリフォルニア(California)州では、暴力に対する「許容度が非常に低い」ことが、セラピーの需要増の原因になっていると、「全米アンガーマネジメント協会(National Anger Management Association)」の州支部を設立したセラピストのアニタ・アベディアン(Anita Avedian)さんは指摘している。

「子どもの手を軽くたたけば、それは虐待だ、あなたは怒る人だといわれる」「ペットに手を出そうものなら、刑務所行き」──といった調子だ。

 セラピーにはグループセッションと個人セッションがある。いずれの場合も、誘発原因の特定の仕方を学ぶ。参加者の多くが配偶者とのトラブルを挙げるが、中には、他人から見下されたような感覚や、上司からの嫌がらせを訴える人もいる。

 セッションでは、自分自身の怒りのレベルを1から10までの数値で評価し、7を超えないという目標を設定する。ディスカッションや視覚に訴えるテクニックを通じて、けんか腰の対応や責められているという感覚を抑え、理性を保って他人の言い分を理解する方法について学ぶ。