■トルコ-シリア国境に「落とし穴」

 2015年4月、ベルギー人研究者のピッチニン氏はシリアに戻った。今回は対ISの最前線に立つクルド人兵士たちと一緒だった。クルド人民防衛部隊(Kurdish People's Protection UnitsYPG)の保護下の方が安心感があったという。「もしもISの兵士と対峙することになっても、クルド人たちはFSAと違い、武器を置くことはないと分かっていた。そんなことをすれば、彼ら自身が生きて帰ることができないからだ」

 ISが米国人記者スティーブン・ソトロフ(Steven Sotloff)氏を斬首した動画を2014年9月に公開してから1週間後、彼が誘拐された状況について、遺族の代理人バラク・バルフィ(Barak Barfi)氏が米CNNテレビのインタビューに答えた。同氏によると、トルコからシリアに入ろうとしていたソトコフ氏の居場所に関する情報をISに売ったのは、穏健派のシリア反体制派組織だったという。「国境にいた誰かがISに電話をかけ、大勢で偽の検問所を作った」。その情報は2万5000~5万ドル(約310万~620万円)で売られたのではないかという。

 多くのジャーナリストがトルコ国境で目撃された後に拘束されている。パドノス氏やフランス人記者のディディエ・フランソワ(Didier Francois)氏、エドゥアール・エリアス(Edouard Elias)氏もそうだ。

 オンラインニュースのデーリー・ビースト(Daily Beast)によれば、ソトコフ氏の場合、彼をシリアに連れて入った仲介人の顔を、経験の浅い欧米メディアのカメラマンが写してしまったために、リスクが増したという。彼はその仲介人と一緒に、2013年8月4日にアレッポで誘拐された。「悲劇は時に、単純な人為的ミスが原因で引き起こされる」とナスル氏はいう。

 欧米人の人質は、ISのようなグループにとって資金源以上の価値があると、フランスのラジオ局RFIの記者で、フランス人のイスラム過激派に関する著書もあるデビッド・トムソン(David Thomson)氏はいう。「欧米人の人質には象徴的、そしてメディア的な価値がある」。特に米国人がそうだ。「英語圏の国は決まって身代金を払わないにもかかわらず、それらの国の国民の誘拐はこれまでのところ減っていない」。近い将来に減ることもないだろう。シリアでの欧米人誘拐は、本格的なビジネスと化しているのだから。(c)AFP/Robin Braquet

本文:ロビン・ブラケ
※この記事はAFPの協力で、フランス報道研究所のジャーリズム専攻生たちが執筆し、2015年6月26日に英語で配信された欧州人の人質に関するシリーズ記事の一つを翻訳したものです。