新支局の真の醍醐味は、新しい国の懐に投げ込まれ、発見したり探索したりできることだ。真っ白なキャンバスを渡され、そこに好きなように絵を描いていくようなものだ。

 そして、カタールの場合、そのキャンバスにはこの国の影の部分も、黒い点としていくつか描かれるだろう。カタールは一言でいうと、エネルギー資源に恵まれた中東の小国だ。地図上ですぐに見つけられる人は多くないだろう。最近ではイスラム主義組織「ムスリム同胞団(Muslim Brotherhood)」とのつながりや、2022年サッカーW杯開催をめぐる状況が論争の的となり、圧力をかけられている。人権団体はカタールが大量の移民労働者を搾取や虐待から保護していないと非難している。

■24時間「中東開拓時代」

 この国の人たちはいつも灼熱(しゃくねつ)の炎天下を避けて、ガラス張りの高層ビルという「箱」の中で働き、そこかしこにあるショッピングモールやドライブスルーのATMを利用しては日々のストレスを発散しているという。私のここでの仕事のひとつは、こうした言われ方のどこまでが本当なのか調べることだ。

 なかには、まさにその通りだという部分もある。例えばドーハのあるモールでは、パリの並木道を模した通路から、モール内にある仏資本の大手スーパー「カルフール(Carrefour)」の入り口まで、電力で動くゴンドラ(もちろんストライプのシャツを着たゴンドラ乗りがいる)が連れて行ってくれる。

 それから、カタールにはたくさんのビルがある。目を見張るほどの建設ラッシュだ。「中東開拓時代」といった様相で、その規模は想像をはるかに超えている。ドーハは絶え間なく変貌している街。タクシーに乗るのも一種の賭けだ。今、まさしく成長中の街には、住所さえもなさそうだ。

 カタールは現在、22年のサッカーW杯へ向けてサッカースタジアムの建設の他に、港や地下鉄、多数のショッピングモール、オフィスビルの新設や道路の整備に着手している。工事現場はドーハの風景の一部になっているだけでなく、そこから出る騒音もこの街の「名物」になっている。

 工事は24時間休みなく続き、建設現場はドーハを囲む月面のような砂漠の手前にまで広がっている。またドーハの北には、25万人規模の新都市がゼロから建設されている。だから、よくメディアに取り上げられている移民労働者たちの姿は、どこでも大勢見かける。たくさんの黄色いヘルメットを目にするたびに、これが国際問題であることを思い出す。