【3月31日 東方新報】未解読の甲骨文字の解読に成功すれば、報酬は1文字10万元(約209万3030円)、解釈に議論のある文字に新解釈を提示できれば、報酬は1文字5万元(約104万6515円)。

 中国文字博物館(National Museum of Chinese Writing)が2016年に懸賞金を出すようになってからも、最初は獲得者があまり出て来ず、寂しい状況だった。

 しかし23年末、吉林大学(Jilin University)の2人の学者が「臺」と「觴」の解釈でそれぞれ二つの賞を獲得し、それを機に学界と社会の関心が高まった。

 吉林大学考古学院古文字学科の何景成(He Jingcheng)主任が取材に応じ「『甲骨文解釈優秀賞』の受賞者は、大部分が吉林大学の卒業生で、その中には甲骨文解釈コンクールで一等賞を獲った蒋玉斌氏もいる」と紹介した。

 何主任の話では、甲骨文字は中国最古の成熟した文字であり、19世紀末に発見されてから現在まで、解読、解釈は常に困難な作業だった。その中で、吉林大学では著名な古文字学者の于省吾(Yu Shengwu)の指導の下、50年代から甲骨文字の研究が軌道に乗り大きな成果を上げてきたという。

 何氏は吉林大学で呉振武(Wu Zhenwu)教授(于教授の弟子)に古文字学を学び、多くの学術論文を発表してきた。

 何氏によると、現在、古文字研究者の座右に必ず置かれる参考書籍の『殷墟甲骨刻辞摹釋総集(殷王朝の墳墓に刻まれていた甲骨文字を写し取り解釈を施した88年出版の研究書』『殷墟甲骨刻辞類纂(殷王朝の墳墓に刻まれていた甲骨文字約5万字を分類・編纂した81年出版の研究書』『甲骨文字詰林(殷の墳墓の甲骨文字3000字に詳細な解釈を示した15年出版の辞書)』『甲骨文字詰林補遺(詰林3000字に入っていなかった1500字を網羅した33年出版の補足版辞書)』などは、吉林大学の学者が中心となって編纂してきた。

 古文字学は、甲骨文や金文(殷王朝と周王朝時代の青銅器などに刻まれた文字)などの古代文字を読み解き、古代の文字資料を使って言語、文学、歴史などを研究する学問だ。入門の敷居が高く、長期間の訓練が必要で、成果を出すのが難しいため、「冷たい学問」と見られている。

 何氏は「古文字学が最も冷遇された時期でも、吉林大学は研究と人材育成を止めなかった」と語る。現在、清華大学(Tsinghua University)、北京大学(Peking University)、復旦大学(Fudan University)などの専門機関の主要な教師は吉林大学の卒業生が多いとのことだ。

 18年当時女子高生だった李盈玉(Li Yingyu)さんは、国語教師が黒板に「馬」の甲骨文字を描くのを見た時、まるでその文字に呼び掛けられたような気がした。21年、18歳になった彼女は大学受験の後、古文字学を専門とする学校を探し始めた。

 吉林大学はちょうどこの年、中国政府の「強力な基礎プログラム(基礎学科への優秀な学生の勧誘と国家戦略分野の人材育成計画)」のパイロット学校として、中国初の古文字学専攻科を開設し、9人の学生が参加した。

 そして李さんはこの9名の1人になった。

 何氏は「古文字学は、言語文字学、考古学、古代文学、歴史学、音律学など多くの学問領域が交差した新たな学問領域で、これを専攻する学生は学部生の段階で基礎的な訓練が必要だ」と指摘する。

 李さんは大学の教室の雰囲気を楽しんでいる。そこでは誰もが自由に発言でき、教師は時々学生にも教壇に上がって自分の考えを話させ、みなで議論する。

 彼女は「古文字を学べば学ぶほど、漢字の魅力を感じます。研究は想像していたよりもどんどん難しくなっていったが、それでも楽しかった」と語る。

 何氏は「専門の学科を設置したことで、期待された訓練効果が得られ、大部分の学生は古代文字と中国文明の継承、優れた中国伝統文化の普及に関心を持ち、指導教官の科学研究プロジェクトにも深く参加するようになり、中には重要な賞を受賞した学生もいる」と専門学科の設置の意義を強調する。

 何氏は「現在、古文字研究は比較的注目を集め始めたものの、まだ「冷たい扉」という体質を変えるまでには至らず、学術成果の発表、プロジェクトの設定、人材育成、社会的な資金支援の面で、まだ不足が大きい」と、国や社会の政策支援の必要性を強調する。(c)東方新報/AFPBB News