【3⽉28⽇ Peopleʼs Daily】楊さんは空気圧で動く手袋をはめた右手でコップを握り、手に取って水を飲み、コップを下ろした。楊さんにとってこの動作は「奇跡」だった。楊さんは交通事故で四肢がまひして14年間寝たきりだったのだ。

 北京市内にある首都医科大学(Capital Medical University)宣武病院の趙国光(Zhao Guoguang)教授と清華大学(Tsinghua University)医学院の洪波(Hong Bo)教授のチームは1月29日、頸髄損傷による四肢まひ患者に対する行為能力付与で世界初の画期的な進展があったと発表した。その事例の患者が楊さんだった。

 チームが試みたのは、電子機器を用いて脳内部の電気信号を感知して、意志によって機器を作動させるブレーン・マシン・インターフェース(脳マシンインターフェース)という技術だった。

 2023年10月24日には楊さんの頭蓋骨の内側に、コイン状の機器2個を埋め込んだ。その機器により、脳の特定部位の神経電気信号の取得に成功した。

 趙教授によると、神経信号を取得する脳の部位を決定するために、事前に磁気共鳴(MR)測定により、脳の活性化領域を探った。趙教授は「サッカー競技場で3万~4万人の観衆が一斉に叫んでいる際に、南スタンド80列目にいる2人が何を言っているのかを探知する」ようなものと説明した。

 電気信号を採取する脳内の精密な部位が確定した後に、脳内に改めて信号を取り出し無線で発信する機器を埋め込んだ。

 楊さんの場合、ここまでの手術が終わってから10日後に退院した。しかし、「念力」で機器を作動させるには、まだ道のりがあった。楊さんが体を動かしたいと思った際に脳内で生じる個別の電気信号を解読して機械に伝える、つまりデコードを確立せねばならなかった。しかも脳内で個別の電気信号が続くのは1000分の1秒単位の時間しかない。

 3か月の時間をかけて、楊さんの体を動かす意志が機械に伝わるようになった。例えば空気圧手袋の動きの精度は90%を超えた。

 この「リハビリ」は楊さん本人、家族、医療関係者、工学技術者、機器メーカーによる「総力戦」だった。趙教授によると、楊さんは機械を使って最初に食べたのがカニだった。旺盛な生命力と健康回復への強い願いが感じられ、楊さんに対しては感謝の念が湧いたという。関係者は、より積極的に未知の分野を模索するよう励まされた。皆が「エキサイティングな体験」をした。

 人の意志により機械を作動させるブレーン・マシン・インターフェースの概念が提唱されてからすでに50年になる。近年では、各国の専門家が研究開発を競い合う人気の研究対象になった。ブレーン・マシン・インターフェースは筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄損傷、てんかんなどの患者を支援するだけでなく、脳と機械の融合知能の実現、人の脳の情報処理能力を拡張することが期待されている。

 趙教授は「患者さんが苦痛を解消し、普通の生活に戻る手助けができることが、私たち医師にとっては最大の幸せなのです」と述べた。(c)Peopleʼs Daily/AFPBB News