【1月26日 AFP】オーストリアの画家グスタフ・クリムト(Gustav Klimt)の晩年の作品で、1925年以来実物が確認されていなかった肖像画が25日、ウィーンで公開された。

 作品はクリムトが亡くなる直前の1917年に、裕福なユダヤ人実業家リーザー家の依頼で描かれた「リーザー嬢の肖像(Bildnis Fraeulein Lieser)」。1925年にウィーンの展覧会に出展されて以来、その存在は1枚の白黒写真でしか知られていなかった。

 ウィーンの競売会社キンスキー(Kinsky)によると、ナチス・ドイツ(Nazis)によって没収された美術品の返還について定めた「ワシントン原則(Washington Principles)」に基づき、現在のオーストリア人所有者とリーザー家の法定相続人の意向で、4月に競売に掛けられる。

 残されていた写真によると、リーザー家の中でこの絵を最後に所有していたヘンリエッテ・リーザー氏はナチスの侵攻にもかかわらずウィーンにとどまり、1942年に強制移送され、翌43年、アウシュビッツ・ビルケナウ(Auschwitz-Birkenau)強制収容所で殺害された。

 現在の所有者が相続前に美術法を専門とする弁護士エルンスト・プロイル氏に法的助言を求めたことで、再び表舞台に出てくることとなった。

■ナチス押収の形跡はなし

 広範な調査にもかかわらず、1960年代に現所有者の手に渡るまでの経緯は不明なままだ。

 プロイル氏は1925年から1960年代まで空白期間があるが、第2次世界大戦(World War II)の前後に略奪されたり、盗まれたり、不法に押収されたりした形跡はないと強調した。

 同氏によると、ナチスに押収されていた場合には、絵の裏側にナチスの秘密警察ゲシュタポ(Gestapo)のスタンプが押されているが、「スタンプもステッカーも一切ない」という。

 キンスキーでは落札価格を3000万~5000万ユーロ(約48億~80億円)と予想している。しかし、クリムトの作品が市場に出回ることはまれで、最近の落札傾向から考えればさらに高額もあり得るという。(c)AFP