【1月24日 東方新報】中国とタイの観光・ビジネス交流が新たな段階に入ろうとしている。タイのセーター・タウィーシン(Srettha Thavisin)首相兼財務大臣が1月2日、中国とタイは3月1日から永久にビザ(査証)を相互免除すると発表した。これに対して、中国外交部の汪文斌(Wang Wenbin)報道官も定例会見で「双方は具体的な事項について緊密に意思疎通している。一日も早く実施されることを期待している」と述べ、永久免除に向けた準備が進んでいることを認めた。

 タウィーシン首相は、陸軍士官の父と華人財閥の母の間に生まれ、若くして不動産王と呼ばれた元実業家だ。2023年8月に首相に選出されると、翌9月から2024年2月末まで中国人観光客へのビザを免除すると発表した。ビザ免除の初日には上海市から到着した中国人観光客を自ら出迎えて、「この政策が(両国)経済を活性化させると確信している」とあいさつしていた。今回、免除の期限が2月末で切れるのを前に、延長ではなく恒久化を打ち出したわけだ。

 背景には、タイの国内総生産(GDP)の2割を占める観光業にとって、中国人観光客がなくてはならない存在になったことがある。タイ政府は、2024年に世界中から3500万人の観光客を誘致する計画であり、そのうち中国人観光客の目標を国別トップの800万人に設定している。

 一方、中国にとってもタイは巨大経済圏構想「一帯一路(Belt and Road)」の重要な拠点だ。タイの首都バンコクからラオスを縦断し中国・雲南省(Yunnan)昆明市(Kunming)まで結ぶ高速鉄道も建設中であり、ますます距離が近くなっている。

 両国のビザ免除のニュースに関連して、中国通として知られるタイのシリントン王女(Princess Sirindhorn)の中国訪問が50回になったことを伝えるニュースが中国とタイで改めて読まれている。

 シリントン王女が「これからは中国のことをよく学びなさい」という母親の勧めで初めて中国を訪れたのは、今から43年前の1981年だった。王女はその後、中国各地を訪れて「友好の象徴」といわれるようになった。

 王女は中国の歴史、文化、音楽を学び続けており、中国の詩人、陶淵明(Tao Yuanming)の古典文学「桃花源記」が中国の文化にどのような影響を与えたかを分析した論文なども発表している。この物語は、桃の林に迷い込んだ漁師が、戦乱の世から隔絶された平和な村を発見する内容。中国語で理想郷を意味する「桃源郷」の語源にもなっている。

 タイだけでなく世界の王族、皇族でも1980年代の中国をよく知る人はシリントン王女の他にいないのではないか。訪中50回の節目を迎えた王女は、中国メディアのインタビューに中国語で応じ、「本当に中国は変わりましたね。私が初めて中国を訪れた1981年は、高いビルもありませんでした。今はどこに行くのも便利です。かつて新疆ウイグル自治区(Xinjiang Uighur Autonomous Region)のタクラマカン砂漠(Taklamakan Desert)に行きたいと思ったものの、遠くて無理だろうと諦めたことがあります。今なら空港もありますし、きっと行けるでしょうね」と感慨深く語っている。

 王女が初めての訪中経験をつづった紀行文「龍の国を訪ねて」をタイで出版して以来、中国に関する本を多く販売し、タイ人の中国理解を助けてきた。王女が言うように、中国は広大で変化も早い。王女でなくても隣国を訪れる意味はあるだろう。今度も隣国間でビザ免除が広がっていくことを期待したい。(c)東方新報/AFPBB News