【12月28日 東方新報】中国で長く社会問題となってきた児童誘拐。ある日、突然目の前から消えた幼いわが子を生死さえ分からないまま何年も探し、さまよい続ける切ない親たちの姿は、実話に基づいた映画『親愛的(邦題:最愛の子)』にも描かれた。

 そんな苦悩の日々を強いられた親たちをひそかに支援している若者たちの活動が知られ、感動を与えている。その若者たちとは、湖北省(Hubei)武漢市(Wuhan)にある華中科技大学(Huazhong University of Science and Technology)のソフト学院を中心とするボランティアグループ。彼らは専門である人工知能(AI)技術を使って行方不明になった子どもたちの古い写真を鮮明によみがえらせ、捜索の助けをしている。

 ボランティアの創設者は、当時、同学院博士課程で学んでいた盛建中(Sheng Jianzhong)さん。盛さんがこの活動を始めたのは、偶然だったという。

 コロナ禍の2020年、盛さんは母親と家でテレビを見ていた。番組は誘拐された子を探す親たちを扱っていた。ところが、画面に映る行方不明の子どもの写真の多くは不鮮明で「こんな写真ならこの子が近くにいても分からない」と思った。

「誘拐被害者の捜索を支援する公益団体のSNS・微博(ウェイボー、Weibo)を見ても、子どもたちの写真の多くがぼやけていて鮮明ではないのを知りました。だから、画像修復のアルゴリズム(計算方法)を開発し、写真をクリアにすれば子を探す親たちを助けられると思いました」

 盛さんの専門はデジタル画像の処理。近隣の武漢大学(Wuhan University)や武漢理工大学(Wuhan University of Technology)の仲間たちも加わり、試行錯誤を繰り返し半年ほどかけて写真修復のシステムを完成させたという。外国のオープンソースを使ったために、修復した写真の顔が外国人風になってしまったという失敗もあった。

 劣化が激しすぎる写真の修復のためにシステムを100回以上修正したこともあった。そしてこの3年間で修復した写真の誘拐被害者は1000人以上、うち11人が見つかった。

 最初4人だったグループは、今では中心メンバーが30名余り。臨時のボランティアは300人以上になる。

 映画『親愛的』の登場人物のモデルとなった孫海洋(Sun Haiyang)さんもグループの支援を受けた一人。孫さんは14年前に息子が誘拐された。防犯カメラが息子を連れ去る男の姿を捉えていたのだが、画像は不鮮明だった。孫さんは、男の写真を鮮明にしてもらった上で改めて警察に提供したという。2021年12月、14年ぶりに息子が見つかった。

「何年も子どもを探すのは困難が絶えません。そうした時に、人びとに関心を持ってもらったり新しい技術が開発されたりすることが、子どもを探し続けようとする希望になります」

 今や誘拐被害者の捜索に使われるAIはこれだけではない。年月を隔てた同一人物を判別したり、血縁者を識別したりする顔認識の技術も活用されている。AIというと何やら得体の知れない不気味さを感じさせるし、ものによってはプライバシーとの兼ね合いや法やルールの整備など克服すべき課題はあるが、少なくとも誘拐被害者の捜索において有効な道具となっている。肝心なのは使う人と使い方だ。

 盛さんたちのグループが、直接子を探す親たちと接触する機会は少ない。親たちの中にはグループの存在を知らない人さえいるという。それでもメンバーの一人はこう話す。

「たとえ親たちに知られていなかったとしても、私たちは有意義なことをしていると思うし、とても幸福感と満足感を得ています」(c)東方新報/AFPBB News