■水不足が原因で「大規模避難」

 国際移住機関(IOM)の報告では、昨年9月中旬までに「中・南部の12州で、干ばつによる状況変化に伴い、2万1798家族(13万788人)が避難を余儀なくされている」としている。IOMによると、気候変動による避難民の74%が都市部に再定住した。

 ジーカール州のガッサン・ハファジ副知事(計画担当)は、水不足が原因で「大規模な国内避難」が起きていると指摘した。

 干ばつに見舞われた南部の湿地帯から住民が退避した結果、過去5年間で「(ナシリヤ)市の郊外に3200戸の住宅が建設された」という。

■社会不安の懸念も

 副知事はまた、「国内避難により、すでに深刻な失業問題に見舞われている若者世代の雇用問題が、一段と深刻化する状況になっている」と指摘した。

 イラクは数十年にわたって紛争が続き、腐敗問題が行政の質を低下させてきたため、田舎も都市部も似たような状況だ。

 NGO「ノルウェー難民問題評議会(NRC)」の専門家トーマス・ウィルソン氏はAFPに、「都市は老朽化して投資が追いついていない既存のインフラにより、元々暮らしてきた住民に対しても基本的なサービスを提供する能力に限りがある」と述べた。

 その上で「農村から都市への人の流れは、不十分なインフラに対する追加的な負担となっている」との見方を示した。

 ウィルソン氏は強制移住を減らしたり、緩和したりするための方策として、「資源管理計画や効果的なガバナンス、投資」の必要性を強調した。

 人口4300万人のイラクで、5人に1人近くのイラク人が水不足に見舞われている地域に住む。

 国連(UN)報告書は昨年4月、気候要因による「社会不安」のリスクを指摘している。

 報告書は「人口が密集した都市部では経済的機会が限られており、若者が疎外や排除、不公正といった感情を強めるリスクがある」とし、「こうした状況は異なる民族・宗教グループ間の緊張関係を悪化させたり、国家機関への不満を高めたりする可能性がある」と警告した。

 ジャッバーさんの兄弟の一人であるカセム・ジャッバーさん(47)も3年前、ナシリヤにやってきた。カセムさんは「故郷を去ってから、働いていない」という。寄付によって費用を支払うことができた背中の手術の後、腰を支えるための器具を装着している。

 カセムさんの10人の子どものうち、学校に通っているのは2人だけだ。子どもたち全員の学費を賄う余裕はない。(c)AFP/Tony Gamal-Gabriel