【3月3日 AFP】ラグハド・カセムさん(34)はイラクの首都バグダッドで自身の問題を相談できる精神科医を探し回り、最終的にインターネットのカウンセリングに落ち着いた。

 数十年続いた紛争の影響とトラウマが残るイラクでは、メンタルヘルスの問題は軽視されがちで、専門家の数も足りておらず、これがカセムさんができる最善の選択だった。

 世界保健機関(WHO)よると、人口4300万人のイラクでは、10万人当たりのメンタルヘルスケア従事者の数はわずか2人となっている。

 カセムさんは長年、自分の心の病気に気付いておらず、「30代に入り」ようやくメンタルヘルスの重要性を理解したという。

 新型コロナウイルスが流行し外出制限があった時期に「うつの症状を自覚し始め」、友人たちから精神科の受診を勧められた。だが受診した人々は薬を処方されていたことから抵抗があったと話す。

 このためインターネットで相談ができる精神分析医を探した。そして、レバノン人の女性医師と出会い、自分の状態の原因を理解することができた。

「彼女のおかげで、(イラク戦争の始まった)2003年とそれ以降に受けた戦争と恐怖、不安のトラウマの蓄積を自覚できた」と話した。

 戦争で破壊され、「イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」により一部地域を支配されたイラクでは精神科への通院を必要としている人は多いが、医療機関は人手が足りていない。

 バグダッドのラシャド(Al-Rashad)精神科病院には統合失調症など重度の精神疾患を患う人が入院している。また外来ではうつや不安障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の患者を受け入れている。

 フィラス・カディミ(Firas al-Kadhimi)院長によると、同院では精神科医11人で、14~70歳の患者1425人を診ている。

「世界中どこを探しても、30日間で患者150人を治療しなければならない医者はいないと思う」と話した。

 ソーシャルワーカー5人も働いているが、毎日100人の世話をし、3人ずつ面談を行うこともある。

 だが、患者のための音楽や美術のワークショップも行われている。

 赤い座席がある院内の小さな劇場では、3人の高齢者が壇上で寸劇の練習をしていた。

 以前は「心の問題を抱えている」と人に明かすのははばかられる空気があった。だがニュースやソーシャルメディアによって、理解が進んだ。

 カディミ氏は「クリニックの受診者は増えている」と話した。(c)AFP/Laure Al Khoury