【11月7日 東方新報】今年はスペインの現代アートの巨匠アントニ・タピエス(Antoni Tapies)の生誕100周年に当たる。このパブロ・ピカソ(Pablo Picasso)、ジョアン・ミロ(Joan Miro)、サルバドール・ダリ(Salvador Dali)に続くスペインの偉大な芸術家を記念して、11月6日から2024年1月7日まで「上海外灘芸術センター185空間」にて「アントニ・タピエス ― 物との対話」展覧会が開催されている。

 この展覧会は1989年に中国美術館(National Art Museum of China)でタピエス作品が展示されて以来34年振りの重要な作品展であり、タピエスの二十余年(1986年―2010年)の創作作品を厳選して展示している。彫塑、多様な材料を用いた絵画、版画など種類が豊富で、またタピエスの幾つかの重要な創作時期の作品が網羅されている。

 この展覧会のキュレーターは中央美術学院美術館(CAFA Art Museum)の館長の張子康(Zhang Zikang)教授で、タピエスの作品の情報提供や展覧活動を行うタピエスの息子夫妻の名を冠する組織「アントニ・タピエス・バーバ アンド ナターシャ・エベール(Antoni Tàpies Barba and Natasha Hebert)」やロンドンの「ティモシー・テイラー・ギャラリー(Timothy Taylor Gallery)」、駐中国スペイン大使館、「上海セルバンティス図書館(Cervantes)」からの大きなサポートを受けている。

 展示作品の大部分はスペインと英国から運び込まれたもので、それらの実物作品が今回初めて、中国国内で展覧されることになった。

 タピエスは芸術における「物質」の取り扱いの大家で、多種多様な材料を用いた創作のパイオニアの1人だ。彼は「物質」が持つ極めて高い感受性と転化の力を活かした作品作りをした芸術家だ。

 彼の見方では、創作とは、芸術家が自我の境界を超える過程だ。彼は、芸術は人の身体と宇宙とを連結させ、内在する精神と外在する環境との障壁を突破し、さまざまな材料による作品制作の過程で、自我精神世界と日常生活の中にある「物」を、豊かな創作表現の中に溶け込ませることだと考えていた。

 中国美術館で1984年4月、中国国際文化交流センター主催の「アントニ・タピエス版画展」が開催された。タピエスのさまざまな物質を総合的に用いる手法は、中国の現代アートの芸術家たちに、かつて無いほど大きな啓発を与えたという。

 このタピエスの初めての個展は、80年代中期に中国大陸に出現した美術運動「八五新潮(Bawu Xinchao)」の現代主義およびポスト現代主義芸術をさらに推し進める手本となり、学界でもタピエスの芸術スタイルの研究が、当時盛り上がりを見せた。

 90年代中期には、当時活躍していた青年芸術家や評論家たちが、わざわざスペイン・バルセロナに出向く「タピエスアート工房詣で」が盛んにおこなわれた。

 当時中国の芸術界が受けていたタピエスの芸術思想の影響力の大きさが感じ取れる。

 タピエスの創作は芸術の範疇を超えており、より高い哲学的視点で理解する必要がある。タピエスの芸術は、有機的で整ったものであり、社会の多重的な次元とつながりを持つ体系であり、人文的な心遣いが内包されているだけでなく、人びとの精神の自己疎外感の克服の助けともなるものだ。

 タピエス生誕100周年に開催される今回の展覧会は、この偉大な芸術家に対する尊敬と追悼の思いだけではなく、タピエスの芸術的価値が現代芸術の中にどう継承され、現代社会の中で芸術がどう発揚されているかを再考し、また人が自身の発展方向などを再度見直すための啓発的な意義を持つものだと言えるであろう。(c)東方新報/AFPBB News