■雇用、先祖の墓…尽きない不安

 住民らの抗議を受け、政府は妥協案を提示した。住民を島から追い出すのではなく、島内の別の場所への移住を打診したのだ。9月28日としていた立ち退き期限も延期。現時点では新たな期日は設定されていないが、一時的には抗議が奏功した形となった。

 面積1万7000ヘクタールのレンパン島には、ソーラーパネル製造に欠かせないケイ砂が豊富にある。政府としては、島に工業団地を設置したい考えだ。当局は、700世帯が影響を受けると推定している。

 バタム市のムハンマド・ルディ(Muhammad Rudi)市長は「誰もが同意していることだが、インドネシアは資金を必要としている。そのための手段の一つが投資だ」と指摘。「もし彼ら(中国側)が不安になって(計画を)撤回したら、レンパン島はどうなるのか」と問い掛けた。

 バタム島からレンパン島に向かって車を1時間ばかり走らせると、道路脇に張り出されたバナーやステッカーが目に飛び込んでくる。書かれているのは、住民らに移住を呼び掛けるメッセージだ。

 移住を迫られている共同体の一つ、センブラン(Sembulang)村付近には、警察官や軍人の姿があちこちで確認できた。

 村民の一人は、警察官や自治体当局者が家々を訪問して移住を呼び掛けていると話した。「夜中にやってきて家から追い出されるのではないかとびくびくしている」と語る。

 ルディ市長はこれに対し、職員が住民を威嚇することはないとしている。

 インドネシア政府は、開発用地は2300ヘクタールで、1万ヘクタールは環境保全のため手を付けないと説明している。

 環境NGOのインドネシア環境フォーラム(WALHI)は、開発により海洋生物に悪影響が及ぶ恐れがあるほか、土壌汚染や砂の過剰採取も懸念されると主張する。

 地元住民の間からも、工場が設置されたとしても雇用されるのは中国人の技能労働者ばかりになるのではと、不安の声が上がっている。「地元住民が雇用されるとしても、結局は肉体労働なのではないか」。地域のリーダー的存在であるティモさんは、こうAFPに語った。

 先祖の墓も気掛かりだと話す。他の住民も同じ気持ちで、工場建設に伴い荒らされてしまうのではないかと心配しているという。ティモさんは「私たちが移住を望むことはない」と言い切った。

 映像は9月11~19日に撮影。(c)AFP/Dessy SAGITA