【10月21日 AFP】インドネシアの村ティンブルスロコ(Timbulsloko)。教師のスルタンさんは、今では海に囲まれてしまったモスク(イスラム礼拝所)で写真を見ながら、子どもたちが笑いながら道を歩いていた日々を思い起こしていた。

 道が緑色に濁った水で覆われたこの村は、海に飲み込まれてしまったジャワ(Java)島の風景の一つにすぎない。

 かつて青々とした水田が広がっていた土地には今、木製の遊歩道とカヌー用の水路が張り巡らされている。約200人が住む村は、島しょ国インドネシアの中でも海面上昇のペースが最も速い地域にある。

 海面上昇に加え、海岸浸食や、過剰な地下水くみ上げによる地盤沈下のせいで生活は劇変している。1990年代に養殖場を造るために行われたマングローブ林の伐採で、洪水に対する脆弱(ぜいじゃく)性も増した。

 ディポネゴロ大学(Diponegoro University)のデニー・ヌグロホ・スギアント(Denny Nugroho Sugianto)教授によると、ティンブルスロコとその周辺のドゥマク(Demak)地域では海岸から5キロの内陸部にまで海水が入り込んでいる。

 地盤沈下は年間20センチのペースで起こっており、2010年に比べ2倍に加速している。スギアント氏は、世界の目の前で「緩慢な災害」が起きていると語った。

■未来はない

 首都ジャカルタは、2050年までに大部分が水没すると予想されている。だが、ジャワ島沿岸の村はすでに緊急事態の最前線にあると専門家たちは警告する。

 漁師をしているという男性は、2018年以降、3回自宅の床のかさ上げ工事をしたと話す。床が計1.5メートル上がった分、頭がぶつかるほど天井が近くなった。「私に未来はない。この村は5年もしないうちになくなってしまう。何も建てられないし、何もできない」

 主婦の女性は、道路の冠水で買い物や子どもの送り迎えが大変だという。「生活するのが厳しくなった。家に浸水するたびに引っ越したいと思う」

■沈む墓地

 海面上昇と闘っているのは生者だけではない。村の墓地も沈まないようかさ上げされ、海水を防ぐためのフェンスや網が張られ、タイヤが積み上げられている。

 住民たちはクラウドファンディングで家と墓地の間に木製の遊歩道を造った。

 若い世代は浸水から逃れるために、家の外で過ごすことが多い。24歳の男性は、ボートが使われるようになる前は浸水した道を通らなければならなかったため、着替えを持って仕事に行っていたと語った。「仕事から帰ると、疲れているし、びしょぬれで本当に嫌だった」

 スギアント氏は政府に対し、地下水の使用を減らすため水道管の設置拡大を要請した。また浸食された部分を補う盛り土も求めている。「元の海岸線を取り戻さずして、この問題の持続的な解決方法はない」

 映像は今年6月に撮影。(c)AFP