【10月15日 AFP】アゼルバイジャンとの国境にほど近いアルメニア・フナツァフ(Khnatsakh)村を囲む山には、入り組んだ洞穴網がある。もしアゼルバイジャンが侵攻してきたら、住民たちはこの洞窟をシェルターにして抵抗するつもりだ。

 フナツァフ村の周辺一帯は、2020年の軍事衝突まで係争地ナゴルノカラバフ(Nagorno-Karabakh)との「緩衝地帯」となっていた。

 この時の衝突ではアゼルバイジャンが勝利し、アルメニアは撤退。これによりフナツァフは、山に設置された複数のアゼルバイジャン軍の拠点に囲まれることになった。

 両国軍の拠点が数十メートルしか離れていない場所もある。

 アゼルバイジャンは今年9月、ナゴルノカラバフで突然軍事作戦を実施し、アルメニア系の分離派勢力から支配権を回復した。

 フナツァフ村に住むアルバード・シモニャンさん(58)は「怖いといえば怖い、特に夜は」と話す。シモニャンさんは、アゼルバイジャンがフナツァフが位置する南部シュニク(Syunik)地方を欲しがっていると考えている。

 アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ(Ilham Aliyev)大統領は、シュニク地方を必ず手に入れると約束した。同地方を獲得すれば、緊密な同盟国であるトルコと国境を接するアルメニア西方の飛び地ナヒチェワン(Nakhichevan)と本土がつながることになる。

 シモニャンさんによると、自宅のバルコニーからは約100メートル離れた拠点にいるアゼルバイジャン兵の声が聞こえる。ののしり言葉を使っていると特に声がよく通るという。

 旧ソ連時代にはアゼルバイジャン系住民が近くの村に住んでいたため、「単語は少し分かる」と話した。

■侵攻には「抵抗」

 20年の衝突や22年の砲撃の際には、シモニャンさんら住民は洞穴に避難した。村にはこうした洞穴が多数ある。

 シモニャンさんは「20年は冬の間ずっとここにいた。地面にマットレスを敷いて眠った。ドアもまだここにある」と話した。

 フナツァフ住民はアゼルバイジャンにナゴルノカラバフの主権があることや、同国が国境を要塞(ようさい)化することは受け入れている。

 だが、もしアゼルバイジャン軍がシュニク地方に侵攻してきたら、産油国であるアゼルバイジャンが軍事的に優位であろうとも、立ち向かうつもりだと住民は口をそろえる。

 シモニャンさんの夫アルトゥーシュさん(68)は「もしかしたら攻撃してくるかもしれないだろ? やつらは臆病者だ。でも、ここは主権国家で、ナゴルノカラバフのような(各国から)承認されていない場所でもない。もし攻撃されたら抵抗する」と話した。(c)AFP/Thibault MARCHAND