【9月30日 AFP】リビア東部デルナ(Derna)で多数の犠牲者を出した洪水では、国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)世界遺産(World Heritage)に登録されている古代ギリシャの植民都市キュレネ(Cyrene)の古代遺跡も被災し、悪影響が懸念されている。考古学者らが明らかにした。

 フランスのリビア考古学ミッションの責任者バンサン・ミシェル(Vincent Michel)氏はAFPに対し、現時点ではゼウス(Zeus)の神殿を含むキュレネの遺跡の被害は比較的軽微にとどまっているが、基礎の周囲を流れる水により将来的に崩壊する恐れがあると語った。

 キュレネは、紀元前600年ごろにギリシャ・サントリーニ(Santorini)島に住んでいた人々が入植し、紀元前365年の大地震によりほぼ放棄されるまで、1000年近くにわたって古代世界の中心地の一つとなった。キュレネの名前は、東リビアの歴史的な呼称であるキレナイカとして残っている。

 遺跡は1982年に世界遺産に指定された。故ムアマル・カダフィ(Moamer Kadhafi)大佐による独裁政権の崩壊とその後の混乱により、2016年には危機遺産リストに登録された。

 ガッツィーニ氏は、一部の場所では古代の壁が崩れ、遺跡からの排水路が塞がれていたと明らかにした。また、「遺跡の低い場所では、濁った水が絶えず湧き出ていた」という。

 その上で、「水が流れ続けて遺跡に溜まった場合、擁壁が崩れ、遺跡が大きく崩壊する可能性がある」と話した。

■「基礎が緩む」

 洪水の後に撮影された写真を分析した前出のミシェル氏は、「現時点ではキュレネの遺跡に大きな被害はない」と語った。ただし、洪水による激しい水の流れによって遺跡に溝ができたほか、遺跡の広い範囲に水が染み込み基礎が緩んでいるため、大きな被害が今後生じる可能性があると指摘した。

 ミシェル氏は、盗掘が起きる可能性も懸念。ただ、リビアの文化遺産当局が迅速に動いていることから、この懸念は少し和らいだという。同当局はキュレネの遺跡保全に関して、フランスやイタリアの考古学ミッションに支援を要請した。

 同氏は協力の狙いについて、「ユネスコと連携して地元当局と協力し、遺跡の主な脆弱(ぜいじゃく)性を明らかにし、状況の悪化に関して記録を取ることだ」と説明。遺跡の排水を確保し、基礎を強化するための対策を講じる必要があると訴えた。(c)AFP