【10月8日 AFP】ハンガリーの若手実業家ジュパン・イシュトバンさん(35)は、首都ブダペスト中心部の託児所に3人の子どもの末子、アンナちゃんを送り届けた。

 ジュパンさん一家は、保守派のオルバン・ビクトル(Viktor Orban)首相の下で導入された出産・子育て奨励制度の恩恵を受けている。「車の購入補助金以外はすべて利用した」「ものすごく助けになっている」と話した。

 これまでに受けた給付金や手当は少なくとも計7万ユーロ(約1100万円)くらいだとAFPに語った。

「ハンガリーモデル」として知られるこの政策は、先月行われた隔年開催の「ブダペスト人口問題サミット(Budapest Demographic Summit)」でも注目された。

 保守派や極右系の政治家、あるいはイーロン・マスク(Elon Musk)氏のような富豪の間で関心が高い政策だが、不平等と差別をあおっているとの批判もある。

■既婚女性優遇

 人口970万人のハンガリーを2010年から率いているオルバン氏は、キリスト教的価値観の保護をうたい、人工妊娠中絶に反対する「非自由主義者」としてアピールしてきた。

 2015年には子育て世代の夫婦向けに住宅補助金制度を導入。2019年に発表した政策には、子どもを4人以上産んだ女性の終身免税制度が含まれた。

 また40歳未満の新婚女性は1000万フォリント(約400万円)の一括融資を申請でき、子どもを3人産めば返済義務がなくなる。

 これらは結婚していることが条件で、離婚した場合は厳しい罰則が科される。

 ハンガリー政府は人口1000人当たりの婚姻件数が、2011年の3.6件から2021年には7.4件へと倍増したのは政策の効果だと吹聴している。欧州連合(EU)の同年平均3.9件をはるかに上回っている。

 出生率も、過去最低だった2011年の1.23から、2021年には1.61まで上昇した。

 だが一方でハンガリーは記録的な高インフレに見舞われ、経済見通しも暗く、政府は住宅補助金や「子育てローン」の受給資格の厳格化も発表した。

■貧困層は排除

 批判派は、保守的な社会の中で、こうした政策が女性に子どもを産むよう圧力を掛けていると指摘する。

 ハンガリー社会科学センター(Hungarian Centre for Social Sciences)のシクラ・ドロッチャ(Dorottya Szikra)氏は、この政策は差別的であり、不平等を助長するものだと非難する。

「政府が打ち出しているこうした高額支援の恩恵を受けることができるのは、圧倒的に高所得の家庭だ」。貧困層は安定した仕事もなく、融資申請に必要な自己資金もない。

 LGBTQ(性的少数者)のカップルも給付対象から除外されている。オルバン政権下で改正された憲法では、男女間のみの結婚を認め、母親は女性、父親は男性と定めている。同性カップルが養子を迎えることは事実上禁止されている。

 だが、AFPの取材に応じた親たちは、子どもを持つかどうかの決断に政策は影響しなかったと答えた。

 冒頭の保育所に生後16か月の息子を預けに来たミュージシャンのナジ・ガボールさん(49)は、3万5000ユーロ(約550万円)程度の支援を受けたと語った。「大金だし、受け取らないのは愚かだと思うが、だから子どもを持ったわけではない」と語り、妻の妊娠は予想外だったと付け加えた。(c)AFP/Balint Domotor