【10月29日 AFP】おがくずとポップコーンの匂いが漂う中、ピエロとマジシャンが現れ、曲芸が披露される。ドイツのサーカス「ロンカリ(Roncalli)」では、昔ながらのサーカスの雰囲気が味わえる。ただ一つ違うのは、動物たちが3Dホログラムで登場することだ。

 動物保護の観点から、ロンカリは1991年にライオンと象のショーを中止した。2018年からは、すべての出し物で生きた動物を使わなくなった。

 パトリック・フィラデルフィア代表(49)はAFPに対し、「本物の動物をサーカスのステージに上げるのは、今の時代にそぐわない」と語った。

 ここ数年、サーカスの設置会場のスペースは限られてきている。「都心の広場に設置する場合、屋外の囲いで動物を放し飼いするようなスペースはない」とフィラデルフィア氏は言う。

 サーカスは各地に巡業し、動物たちは次の町までワゴン車で運ばれる。そうした生活が馬などにとって大きな負担になっていた。

 しかし、子どもたちを魅了するサーカスの動物たちの魔法は守っていきたい。模索していたサーカスにとって、米歌手ジャスティン・ティンバーレイク(Justin Timberlake)さんが故プリンス(Prince)さんのホログラムと「コラボレーション」するというアイデアを聞いたことがヒントになった。

 北部リューベック(Lubeck)で行われた公演は、「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ(The Velvet Underground & Nico)」の楽曲「サンデー・モーニング(Sunday Morning)」に合わせて蒸気機関車が会場を一周しながら始まった。

 鮮やかな緑のオウムに続いて、象の親子が登場。観客に向かって足を踏み鳴らし、叫んだかと思うと、馬の一群が駆けてきて、追い出される。

 サーカスの観客席は円形のため、視覚的なイリュージョンをつくり上げるのは技術的な挑戦だった。

 テントの天井に配置された11台のカメラを使い、高解像度の映像がステージの周りに張り巡らされた目の細かいネットに投影される。照明が落ちると、ネットはほとんど見えなくなり、映像が飛び出して見える仕組みだ。

■サーカスに動物がいないことが大事

 動物がいないことは、サーカスの新たな魅力にもなっている。

 サーカスを見に来ていた学生は、「ロンカリという名前は聞いたことがなかった。それから動物がいないということも知った。そこが、私にとってはとても大事なポイントだった」と話す。以前に家族とサーカスを見に行った時に嫌な思いをしたという。

「動物たちが閉じ込められている狭いおりにばかり目が行った。あれは動物虐待以外の何物でもない」と語った。

 本物の象やライオンは登場しないが、サーカスにすっかり夢中になっていた家族もいる。

 2人の息子と訪れていた男性(39)は「(動物が)いなくてもいいと思う。他の見せ場を特別なものにしようと頑張っているのが分かる」と語った。

 子どもに戻った気分だと話す夫婦(63)は、「見事なアクロバットだ」「動物を見たければ、動物園に行けばいい」と話した。(c)AFP/Raphaelle LOGEROT and Sebastien ASH