【8月26日 AFP】17年前に膵臓(すいぞう)の手術を生き延びたアレリー・バスケスさんは、「サンタ・ムエルテ(Santa Muerte)」に感謝することを誓った。以来、「死の聖母」をたたえる祭典をここ米ニューヨークで毎年主催している。

 サンタ・ムエルテは、メキシコで伝統的なカトリック聖人と並んで敬愛されている骸骨の聖母だ。その姿はしばしば大鎌、地球、バラなどを持って描かれる。

 米国でもサンタ・ムエルテの信者は増えており、バスケスさんはいわば「マドリナ」、つまり祝福を行う司祭の役を果たしている。サンタ・ムエルテを信じれば「困難な状況から抜け出す手助けをしてくれる」という。

 今月クイーンズ(Queens)地区で行われた祭典では、全米から集まった信者が祈り、供え物をささげ、骸骨の聖母から授かった多くの祝福の話を分かち合った。皆、ペンダントや指輪、タトゥーなどでサンタ・ムエルテの姿を身に着けていた。

 サンタ・ムエルテ研究をまとめた著書「Devoted to Death: Santa Muerte, the Skeleton Saint(死への献身:サンタ・ムエルテ、骸骨の聖母)」を記したバージニア・コモンウェルス大学(Virginia Commonwealth University)の宗教学者、アンドリュー・チェスナット教授(宗教学)は「カルトでもセクトでもない、地球上で最も急成長している新興宗教運動」だとAFPのメール取材に答えた。

 同氏によると、サンタ・ムエルテ信仰は2001年にメキシコの首都メキシコ市で初めて多くの信者を獲得した。現在の信者数は約1200万人。メキシコを中心に米国や中米諸国に広がっている。

■誰もが歓迎される

 先住民信仰と数百年にわたるカトリック信仰に根ざしたメキシコ文化では、死と死後の世界への敬意が浸透している。死は新たな生命を得る機会とみなされる。信者にとっては、サンタ・ムエルテを崇拝することも自然な流れだ。

 メキシコのカトリック教会は「悪魔崇拝」だと繰り返し非難しているが、「メキシコの信者のほとんどは今でも自分はカトリック教徒だと考え、カトリックの聖人に祈るのと非常に近い態度で接している」とチェスナット氏はいう。

 サンタ・ムエルテ信仰には祈り方や日々の実践を定める教義はなく、信者はサンタ・ムエルテと直接交わる。サンタ・ムエルテは人種、国籍、性的指向、経済的地位などに関係なく、全人類の祈りや願いを受け入れるという。

 メキシコやエルサルバドルでは麻薬の密売人にも崇拝されている。

 2012年にサンタ・ムエルテを信仰し始めたアレハンドラ・フローレスさん(49)は、バスケスさんと同じくトランスジェンダーであるためにそれまで見つからなかった仕事にやっと就くことができたと語った。

「薬物依存症者でも、警官でも、トランスジェンダーでも構わない」とフローレスさん。サンタ・ムエルテには「誰もが歓迎される」と述べた。

 クイーンズでの祭典に参加するために300キロ近く離れたメリーランド州からやって来たというグアテマラ移民のマイク・ロサレスさん(36)は、自宅の一室を骸骨の聖母にささげてあり、外出するとき、帰宅するときに祭壇の前で立ち止まる。

 チェスナット氏は「貧富の差が激しいメキシコ、中米、米国では、サンタ・ムエルテの水平な大鎌が人々の心に強く響く」と述べた。(c)AFP/Ana FERNANDEZ