【8月13日 AFP】世界で最も暑い都市の一つ、イラン中部の砂漠地帯に位置するヤズド(Yazd)。数百年前に造られた日干しれんがの家々から伸びた煙突のような高い塔から、涼しい風が家の中に取り込まれている。

 ペルシャ語で「バードギール」と呼ばれる風の塔は、夏の気温が40度を超える古代都市の住民が開発した、驚くべき工学技術の一つだ。

 大量の電力を消費するエアコンとは違い、費用はかからず二酸化炭素も排出しない。

 文化遺産・観光・手工芸省の地元担当者、アブドルマジド・シャケリ(Abdolmajid Shakeri)氏は「何百年もの間、電気が使われるようになる前から、風の塔で住居が冷やされてきた」と述べた。

 ヤズドに700基ある風の塔のうち、もっとも古いものは14世紀のものとされる。しかし、その建築的特徴はペルシャ帝国が中東の大部分を支配していた2500年前までさかのぼると考えられる。

 シャケリ氏は、古代シルクロード(Silk Road)でキャラバンの中継地だったヤズドの発展において「バードギールが重要な役割を果たした」と指摘。

 縦に大きい塔の開口部から新鮮な空気を取り込み、室内の温まった空気が排出される仕組みのおかげで、「人々は風の塔のおかげでゆったりと暮らすことができた」と語った。

 ドーラトアーバード(Dowlatabad)庭園には、高さ33メートルの世界最大規模の風の塔がある。マジド・オルミ(Majid Oloumi)園長は、風の塔の冷却方法について「電気も使わず汚染物質も出ない、完全にクリーンなもの」だと述べた。

 ヤズドは2017年、「砂漠で生き残るため、限られた資源を賢く利用した生きた証拠」として国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)の世界文化遺産に登録された。

 ジンバブエで風の塔にヒントを得た換気設備が導入されるなど、他国でも注目されている。しかし、オルミ氏によると、ヤズドでは特に冷房の登場により、風の塔は廃れ始めた。「残念ながらわれわれの祖先の伝統は忘れ去られている」と嘆く。

「今日の住宅は他国の模倣をしている。セメントを使った建築はヤズドの気候に適していない」