【8月6日 東方新報】「食在広州(食は広州に在り)」という言葉は、中国が誇る広東料理の魅力をよく言い表している。中華料理の中でも、広東料理は豊富な食材を使うことで知られており、食材の風味を生かすためにあっさりした薄味が主流だ。

 ところが、広東省(Guangdong)の中心都市である広州市(Guangzhou)で、ちょっとした異変が起きている。中国の華僑向け通信社「中国新聞社(CNS)」によると、広州の主要なショッピングモールを調べたところ、地元の広東料理だけでなく、辛いことで知られる四川(Sichuan)料理や湖南(Huna)料理のレストランの前にも長蛇の列ができているという。

 折しも、広州は新型コロナウイルスの感染拡大が収まり、3年ぶりの人出でにぎわっている。広州市の統計によると、今年1~4月のホテル・飲食業の小売総額は前年同期比26.9パーセント増。「リベンジ会食」のブームに乗って、四川料理、湖南料理といった料理が流行した形だ。

 広州市の中心部にある複合商業施設「広州正佳広場(Grand View Mall)」に今春開店した湖南料理チェーン「費大厨辣椒炒肉」の広州1号店前には、お昼前から長蛇の列ができる。1日の平均来客数は約1000人。開店から2か月間の累計来客数は7万人以上に達したという。

 このレストランチェーンは、広州だけでなく北京市や上海市、深セン市(Shenzhen)に90以上の直営店を持つ。湖南料理ブームは広州だけでなく中国全土に広がりつつあるとの見方も出ている。

 広い中国では、料理にもさまざまな流派がある。一般的には「八大料理」に分けて説明されることが多い。それらは山東料理、四川料理、広東料理、福建(Fujian)料理、江蘇(Jiangsu)料理、浙江(Zhejiang)料理、湖南料理、安徽(Anhui)料理である。八大料理の中でも、あっさりした広東料理とこってりした湖南料理は対極の味付けだ。

 湖南料理は「中国一辛い料理」とも、湖南省出身の毛沢東(Mao Zedong)が愛したことから「毛家菜」とも呼ばれる。その辛さについては、四川省の辛くてしびれる「麻辣(マーラー)」と区別して辛くて酸っぱい「酸辣(スアンラー)」と形容される。とにかく辛くてこってり脂っこいのである。

 それにしても、広東料理の本場である広州で湖南料理や四川料理が流行したのはなぜか。湖南省は広東省に隣接し、出稼ぎも多いことから、湖南料理が好まれているとの解説をよく聞くが、北京など湖南省出身者が比較的少ない地域でも湖南料理はブームだ。

 比較的説得力があるのは、「現代中国人にとって辛い料理を食べることはストレス発散」という説である。東京で中国レストランを経営する四川省出身の中国人によると、中国が急速に豊かになった1990年代には、とにかく甘い料理が好まれた。「当時は、珍しいものは全て香港など南方からやってきた。食事は、あっさりと甘い味付けの広東料理が最高級と思われていた」という。

 風向きが変わったのが2000年以降。中国が世界貿易機関(WTO)に加盟し、本格的な競争社会に突入した。「食べた後に唇がはれるような辛い四川料理や湖南料理の店が上海や北京に開店した。辛ければ辛いほど店ははやった」と彼はいう。

 彼の推論では、コロナ禍で会食が厳しく規制されたストレスを発散するのに、辛い四川、湖南料理はうってつけだったのだという。最近では、広東料理の店でも、トウガラシを大量に使った辛い料理をメニューに載せる店が増えている。あらゆる食材を鍋に入れ、その幅を広げてきた広東料理である。いつまでも四川、湖南料理に客を取られてばかりではない。コロナ禍が中国社会に与えた影響は計り知れない。しばらくは広州の食の流行から目が離せなくなりそうだ。(c)東方新報/AFPBB News