【8月13日 AFP】ウクライナ生まれのロシア人エカテリーナ・ゲルマノビッチ(Ekaterina Germanovich)さん(40)は、南米ウルグアイの首都モンテビデオにあるロシア大使館に勤めていた。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻で人生は大きく変わった。

 侵攻への抗議として経済担当参事官の職を捨て、新たな道を模索。焼き菓子作りコンテスト番組「ベイクオフ・ウルグアイ(Bake Off Uruguay)」で優勝し、一躍、地元の有名人となったのだった。

 AFPの取材に応じたゲルマノビッチさんは、侵攻を「決して消えることのない痛み」だと語った。

 旧ソ連時代に現在のウクライナ・ザポリージャ(Zaporizhzhia)に生まれ、幼い時に家族でモスクワに移り住んだゲルマノビッチさんは、ロシア国籍しか持っていない。

 子ども時代はウクライナで休暇を過ごした。ウクライナ・ロシア両国に親族がいるが、今では絶縁状態になった人もいる。

「ウクライナではロシアにいる人とのつながりは裏切りだと見なされる。それはロシアでも同じだ」と説明した。「ウクライナの親戚の中には、私たちがロシア人だという理由で連絡を絶った人もいる」

■菓子作りが慰めに

 ウクライナ侵攻を許せなかったゲルマノビッチさんは、侵攻開始直後の昨年3月に10年にわたる外交官としてのキャリアを捨てた。「将来は約束されていた。でも、祖国を爆撃している国の政府を代表し続けることは無理だった」

 退職後、7か国語を操るゲルマノビッチさんの職探しは難航した。うつ状態にあったゲルマノビッチさんに、友人が「ベイクオフ・ウルグアイ」への出場を勧めた。7月12日、出場者14人のうちゲルマノビッチさんが優勝し、賞金60万ペソ(約220万円)を手にした。

 ゲルマノビッチさんの焼き菓子作りは主に、コンテスト期間中に亡くなった、母方のウクライナ人の祖母が教えてくれた伝統的なレシピを基にしている。

 近日中に、友人のすし屋を間借りして菓子の販売を始める予定だ。将来は自分の喫茶店を開きたいと考えている。

 現在3人目の子を妊娠中のゲルマノビッチさんは、ウクライナ侵攻反対を公言することは怖くなかったと話す。だが「今後数年」はロシアに帰るつもりはない。ロシアでは18歳以上の男子に1年間の兵役義務があり、2人の息子、特に16歳の長男の将来を考えてのことだ。

「ロシアに行ったら自分の身に何が起こるか分からない」「大したことはない、何も起きないと言う人もいるが、私は公に戦争に反対した人間だ」と話した。(c)AFP/Alina DIESTE