【7月30日 AFP】アルバニア北部の片田舎に住むジュスティナ・グリシャイ(Gjystina Grishaj)さん(58)は、数十年にわたり一家の働き手として木を切り、トラクターを運転し、家畜の世話をしてきた。しかし今、家族を守るために働き続けたグリシャイさんに残されたのは、独りぼっちの生活だ。

 グリシャイさんは、数少なくなった「ブルネシャ(Burreneshe)」の一人だ。ブルネシャとは、宣誓し、その後の人生を男性として生きることを選択した女性だ。家父長制社会が色濃いアルバニアに古くからある風習で、性交渉未経験の女性だけが選択できる。男性として生き、働くことの条件として、性交渉や結婚、親になることはあきらめなければならない。

 30年以上前の決断は、必要に駆られてのものだった。家族を守るため、自ら働くために、ブルネシャとして生きることを決めたのだ。

 しかし今、グリシャイさんは独りぼっちだ。他の多くのアルバニア人と同様、家族や親族はより良い仕事を求めて家を離れ、国を出てしまっている。「これまで家族のために犠牲となってきたのに、残されたのは孤独」

「大勢が暮らしていたこの大きな家は、今は静まり返っている。とてもつらい」

 アルバニアは、共産主義支配下の苦難の時代を経て、経済のグローバル化に組み込まれる中での混乱期を迎える。グリシャイさんはまさにそうした過渡期に成人した。

 父親が病に倒れ、長兄が亡くなり、姉妹は結婚して家を出た。家にはグリシャイさんと、世話が必要な家族6人が残された。そして、究極の決断をするに至った。「男性のように働くことを決めた。きょうだいたちが教育を受けられるように、病気の父親の薬を買うために」

 母親は反対した。

「私には結婚を強く勧めた」。しかし、候補の相手が家を訪ねてくるたび、身を隠した。

 そして、ブルネシャとして生活し、肉体労働を続けたグリシャイさんは、頑強になった。「私は一家の稼ぎ手になった」と言う。

 髪を短くし、長いズボンをはき、カフェでは男たちに交じってブランデーを飲んだ。一家の重要な決め事についても発言権があった。