【7月23日 AFP】地中海の島国キプロスの首都ニコシアにある動物病院に、ネココロナウイルスの一種による感染症にかかった生後6か月の茶色い子ネコ「ベベ」が運ばれてきた。

 島のいたるところにネコがいる「ネコの島」キプロスで今、ネコの感染症が広がり、大混乱となっている。

 専門家によると、現在島に生息するネコの数は、島の人口とほぼ同数の約100万かそれ以上で、そのほとんどが野良だ。

 ベベの診察に当たった獣医師は、猫伝染性腹膜炎(FIP)の感染がここ数か月、急拡大していると言う。

 FIPのヒトへの感染はない。ただ、ネコの間での感染力は強い。感染した場合、発熱や腹部の膨満、衰弱などの症状が出るほか、攻撃的になることもあるという。

 慈善団体「キャッツ・パウズ・キプロス(Cats PAWS Cyprus)」のディノス・アヨマミティス代表によると、今年はすでに30万匹が死んでいる。

 キプロスでは、島のネコの約3分の1がFIPにより死んだと推定されている。

■歴史ある「ネコの島」

 キプロスでは、ネコとの関係において長い歴史をたどることができる。

 言い伝えによると、約1700年前にローマ帝国のヘレナ(Helena)皇太后が毒ヘビ駆除のため、キプロスに初めてネコを持ち込んだとされる。

 世界で最も早くからネコが家畜化されていたという考古学的証拠もある。新石器時代のシロウロカンボス(Shillourokambos)という村で、約9500年前に人と一緒に埋葬されたネコが見つかっている。

 FIP感染拡大を抑制するため、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬「レムデシビル」と化学的に類似する抗ウイルス薬「GS-441524」の使用が検討されている。この薬は制限付きで英国において動物への使用が認められており、キプロスへの輸入も承認されている。

 だが、ネコ1匹当たり3000~7000ユーロ(約47万円~約110万円)と多額の費用がかかる上、キプロスでの供給はない。

 また、経口抗ウイルス薬「モヌルピラビル」の使用も検討されたが、キプロスでは動物への使用が認められていない。ネコ1匹当たりの薬価は200ユーロ(約3万1000円)と「GS-441524」よりも安価なため、政府に使用許可を求める動きがここ数週間広がっている。

 農業・農村開発・環境省はAFPに対し、「欧州市場で入手可能なさまざまな治療薬」から対応を検討していると述べた。(c)AFP/Anouk Riondet