【7月16日 AFP】シンガポールでは、死刑執行を控えた受刑者に写真撮影の機会が提供される。「愛する人の最後の写真を」との当局の呼び掛けに対し、「残酷だ」と受け止める家族もいる。

 カメラに向かって笑顔でVサインを見せる死刑囚ナゼリ・ラジムさん(64)。絞首刑の執行を間近に控えている様子はうかがえない。昨年執行された絞首刑の数日前に撮影された写真は、麻薬密売の罪で死刑宣告されたナゼリさんの家族にとって、形見の一つとなった。

「写真を見るととても元気そうで、とてもイケメン。顔が輝いている」と、妹のナジラ・ラジム・ハーツレットさんはAFPに語った。「こんな形でいなくなるなんて、ひどく動転している」

 シンガポールは、殺人や一部の誘拐など多くの犯罪を死刑の対象としている。世界で最も厳しい麻薬犯罪に対する法律があり、500グラム以上の大麻密輸には死刑が科される可能性がある。

 新型コロナウイルスが世界的に流行していた2年間は死刑執行が一時的に中断されたが、再開後には13人の刑が執行された。

■「非常に残酷」

 シンガポールの刑務所当局は、写真を撮影するかは選択でき、「家族としては愛する人の現在の写真を手にすることができる」としている。だが、家族の思いは複雑だ。

 ナジラさんは「実際のところ、最期の数日に写真を撮るのは非常に残酷だ」と話す。自分の最後の写真になると知った死刑囚がどれだけ恐怖を抱くか、思い巡らせた。

 他方で、「彼が本当にいなくなっても、思い出として最後の写真は残る」と、割り切れない心境を明かした。

 シンガポールでは、死刑囚に関する情報はほとんど公開されていない。

 死刑廃止を訴える人権団体「トランスフォーマティブ・ジャスティス・コレクティブ」(Transformative Justice Collective)は、現在の死刑囚は53人前後と推定。その多くが麻薬関連で有罪判決を受けているとしている。

 同団体の活動家コキラ・アンナマライさんは、写真撮影は死刑執行に当たって「うわべの思いやりを提供しようとする」試みだとみている。

 撮影時、受刑者は特別なポーズを取ったり、家族にとって意味のある服を着たりできる。「写真は家族宛てのラブレターのようなものでもあると思う」と、アンナマライさんは語った。

 アムネスティ・インターナショナル(Amnesty International)など人権擁護団体は、シンガポールに対して死刑廃止を求めてきたが、政府は犯罪の抑止力となっていると主張している。