【7月16日 AFP】タイの一流大学で経済を学んだシェフ・トンことティティット・タッサナーカジョン氏(38)は、約束されていた金融業界でのキャリアに背を向け、屋台料理が有名な首都バンコクで高級レストランを立ち上げた。今やタイの若手一流シェフの一人だ。

 タイ語で「季節」を意味するレストラン「ルドゥ(Le Du)」は、英グルメガイド「世界のレストラン・ベスト50(World's 50 Best Restaurants)」のアジア部門ランキングで今年トップに輝いた。スパイシーなタイ料理を良心的な値段で食べられる高級店として評判だ。

 タイ料理の認知度を高めるために努力してきた10年間の集大成として、今回の受賞があったとシェフ・トン。「以前は皆、タイ料理といえば安い屋台料理のイメージで、高級店はフレンチかイタリアンしかないと思われていた。そういう考えを変え、タイ料理が洗練された高尚な料理であることを示したかった」

 テイスティングメニューは4皿から成るコースと6皿から成るコースの2種類。メインは、ジャスミンで香りづけした冷水にご飯を浸した伝統のコメ料理「カオチェー」をオリジナルにアレンジ。エビと豚肉のパテ、大根のピクルスが付き、ジャスミンアイスクリームが添えられている。

 またテナガエビのグリルは、豚バラのジャムとオーガニックライスで作ったエビペーストのまぜご飯を添えたルドゥ特製の一品となっている。「私にとって、地元の食材を紹介することはとても重要だ」とAFPに語った。

■1ドルの食事も200ドルの食事も「最高」

 タイでは2017年以降、約30店のレストランがミシュランガイド(Michelin Guide)の星を獲得している。そのほとんどがバンコクにある。

 昨年その仲間入りを果たした「ポートン(Potong)」のシェフ・パムことピチャヤー・スントンヤーナキット氏(33)は「タイにおける高級料理店の黄金時代が到来した」と意気込む。

「ポートン」はチャイナタウンの狭い通りに、靴屋に挟まれてたたずんでいる。一家が代々暮らし、かつては伝統薬を売っていた築100年の中葡様式の建物で、今ではタイ・チャイニーズ料理を提供している。

 シェフ・パムが子どものころに好きだった中華系の屋台料理、ガチョウの煮込みがレストランのアイデアに火をつけた。「バンコクのチャイナタウンで高級店は珍しい」という。

 20品から成るテイスティングメニューには、2週間熟成したカモの5種スパイスあえ、スラタニ(Surat Thani)産カキのビネガーパール添え、カニの黒こしょうジャム添えなど光るメニューが並ぶ。このコースに舌鼓を打てるのは毎晩35人のみ、予約は3か月待ちだ。

「外国の人たちがポートンを目指してタイに来るようになってほしい」とシェフ・パムはいう。

 ユーチューブで1000万人近いチャンネル登録者数を誇る米国の料理ブロガー、マーク・ウィーンズ(Mark Wiens)氏は「バンコクは1ドルの食事をしたいときでも、200ドルの食事をしたいときでも、すべてにおいて最高だ」とAFPに語った。(c)AFP/Stephane DELFOUR / Alexis HONTANG / Montira RUNGJIRAJITTRANON