【7月11日 AFP】インド東部・西ベンガル(West Bengal)州コルカタ(旧カルカッタ)のスラム。ベストセラー小説のモデルとなった修道士のガストン・ダヤナンド(Gaston Dayanand)さん(86)は出版から数十年たったいまも、この地で最も貧しい人のために働いている。

 ピルカナ(Pilkhana)の巨大スラムで支援を行うガストンさんの姿は仏作家ドミニク・ラピエール(Dominique Lapierre)氏の1985年の小説「歓喜の街カルカッタ(The City of Joy)」の主人公のモデルとなり、パトリック・スウェイジ(Patrick Swayze)さん主演で映画化もされた。

 ガストンさんは37年、スイス・ジュネーブの労働者階級の家庭に生まれた。6歳の時には、自分の人生を「キリストと貧しい人々のために」ささげると決意したことを覚えている。

 プラド(Prado)修道会に所属するガストンさんは「司祭になりたいと思ったことは一度もない」と、コルカタの南西75キロに位置するゴハロパタ(Gohalopata)村にあるNGO「ICOD」の事務所でAFPに語った。ガストンさんが共同設立者となっているICODは、孤児や高齢者、障がい者や精神疾患のある人ら、あらゆる信仰を持つ81人を受け入れている。

 教会はスラムで暮らすことを快く思っていなかったが、「私の人生は最も貧しい人々と分かち合うものだった」と話す。

 訓練を受けた看護師だったガストンさんは72年、ピルカナの小さな自助センターでフランス人司祭と働くため、インドに来た。当時はそこがインド最大のスラムで、世界最大だとも言われていたという。

「医師も、NGOも、キリスト教徒もいなかった。つまり、完全に見捨てられた場所だったのだ」

■「シカゴのガンジス川」

 81年のある日、「マザー・テレサ(Mother Teresa)から紹介を受けた」と言ってラピエール氏が訪ねてきた。「貧しい人々」についての小説を書きたいと話すラピエール氏の誠実さに心を打たれ、2人は友人となった。

 昨年12月に亡くなったラピエール氏はガストンさんについて「その素晴らしい愛と分かち合いの精神は『歓喜の街カルカッタ』に記した。世界の光の一つだ」と評していた。

「歓喜の街カルカッタ」は世界中で翻訳され、数百万部を売り上げた。ガストンさんによると、ラピエール氏は約30年にわたり、ガストンさんの運営する全NGOに印税のほぼ全額に相当する年300万ドル(約4億2500万円)を支援してくれた。

 だが、スウェイジさんが架空の医師を演じる映画は嫌っている。「はっきり言って、この映画は大嫌いだ。『歓喜の街』ではなく『ガンジス(Ganges)川ほとりの街シカゴ』になっている」と述べた。