【7月9日 AFP】ウクライナの首都キーウを出発した西部ウジホロド(Uzhhorod)行きの夜行列車。7歳と10歳の娘を連れて5号車に乗っていたアナスタシアさん(38)は、安心感を覚えていた。このコンパートメント(仕切り客室)に男性客が乗ってくることはないからだ。

 ウクライナ鉄道(Ukrainian Railways)は先月30日、女性客を狙った性犯罪を撲滅するため、長距離列車の4路線に女性専用車両を導入した。

「娘たちと私だけで移動するのは初めて」だというアナスタシアさんは、女性専用車両があると知り、安全と快適さを重視してすぐにチケットを購入した。

「着替えもできるし、夜も眠れる」「閉ざされた空間なので、男性と一緒だと落ち着けない」と話した。

 世界最大級のウクライナの鉄道網はもともと、安価な国内旅行の手段として人気を集めていた。ロシアによる侵攻開始後は、避難や他国指導者のキーウ訪問、部隊の移動手段として重要な役割を果たしてきた。前線に向かう男性に交ざり、一人で移動する女性も多い。

 5月中旬、列車内でセクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)や痴漢、さらにはレイプが横行しているとして、すべての長距離列車の少なくとも1両は女性専用にするよう求めるオンライン署名が政府のウェブサイトに掲載された。

 2万5000筆以上の署名が集まり、ウクライナ鉄道は導入に踏み切った。

 三つある女性専用コンパートメントの一つに乗っていたオレナさん(60)は、この試みを称賛。女性車両の方がいいとして、「乗った瞬間から、まとまったチームのような雰囲気があり、移動が楽しい」と語った。

 オクサナさん(22)は、男性客と引き離すため、女性専用車両は先頭か最後尾に配置した方がよかったと指摘した。ただ、男性が近くにいることで、酔っぱらいやマナー違反の乗客から守ってもらえるメリットもあるとも話した。

 ウクライナ鉄道は、今回の試みが成功すれば、女性専用車両の導入を拡大する可能性があるとしている。

 一方で、オンライン署名はソーシャルメディアで激しい議論を引き起こした。

 多くの女性は支持したが、男性からは一種の「男性差別」だとする主張や、潜在的な性犯罪者と見なされることに憤慨する意見もみられた。

 キーウ市内の駅のプラットホームにいたアンドリーさんは、女性専用車両は「いい案」だと思うとしながら、男性専用車両も取り入れるべきだと指摘した。「それなら、チェスもできる」と笑った。

 映像が6月30日撮影。(c)AFP/Emmanuel PEUCHOT