【8月6日 AFP】活気に満ちた屋台の料理や南国の果物で知られるタイで、ラチャニコン・シーコン(Rachanikorn Srikong)さん(47)は、「チーズ」作りに挑戦している。

 地方には田んぼや果樹園が広がるが、農業に占める酪農の割合はほんのわずかで、チーズを食べる習慣はない。

 ラチャニコンさんは、数少ないチーズ製造者の一人だ。ラチャニコンさんのチーズは、首都バンコクにあるミシュランガイド(Michelin Guide)の星獲得店からも注目をされている。

 ラチャニコンさんは約30匹のヤギから15種類のチーズを作る。竹炭やワイルドライス、パンダンリーフでコーティングするなど、タイならではの工夫を凝らしたものもある。

 農村部出身で乳製品をほとんど食べたことがなかったラチャニコンさんは、おいしいチーズとはどんな味かということを一から学ばなければならなかった。

 7年ほど前からチーズ作りを始めたものの、味の判断ができないため「目が見えない画家」のような気持ちになったという。

「とてもおいしい」と言われても、本当かどうかよく分からなかったとAFPに語った。「子どもの頃、母親の料理でチーズは出たことがなかった。豆腐とお米を食べていた」

「匂いが分かるようになるくらい」チーズ作りに関する書籍を読み込んで、学んだと話す。

 そしてたどり着いたのは、タイの伝統的な魚を発酵させた調味料プラーデーク(プラーラー)だった。独特なにおいがあるヤギのチーズと通じるものがあることに気付いた。

 プラーデークを食べて育ったラチャニコンさんは、チーズのうま味を理解するのには、うま味成分がおいしさの秘訣(ひけつ)となっているプラーデークのような発酵食品に対する理解が鍵になると考え付いた。

「うま味は、子どもの時に食べた母の手料理を思い出させるもので、私たちを幸せにする。脳が匂いとうま味、そして愛を関連付ける」

■「失敗、失敗、また失敗」

 ラチャニコンさんは、バンコクから車で1時間のナコンパトム(Nakhon Pathom)にある小さな牧場の質素な木造の小屋に住んでいる。一方、ヤギたちは木陰に造られた風通しの良い宮殿のような2階建ての納屋で暮らす。

 ほぼ1年中高温多湿なこの国でチーズを作るのは、容易ではない。

「欧州やフランスの菌を使うのは、この気候では難しい」と説明する。チーズ作りを始めた当初は苦労したという。「あらゆる限りの方法を試したが失敗した」

 一度成功したと思っても、次に何度やっても失敗したという。

 しかし、自称「科学オタク」のラチャニコンさんは試練を楽しみながら、粘り強く取り組んだ。

 現在、ラチャニコンさんは、数週間入念に準備して出来上がったチーズをバンコクにある10軒超の高級レストランに納品している。うち4軒はミシュランの星付き店だ。

 チーズ作りの一番の魅力は「人々を笑顔にすること」と話す。「人生は素晴らしい。チーズはそんな人生をさらによくする」 (c)AFP/Lisa MARTIN