【6月25日 AFP】グラスの液体は黄金色で、泡立ち、ほろ苦かった。ポーランド国境に近いドイツ東部ノイツェレ(Neuzelle)のビール醸造所でシュテファン・フリッチェ(56)さんがつくった新作は、ビールそのものだ。

 しかしそれは、水に粉末を溶かすという、画期的な製法でつくられたものだった。フリッチェさんはAFPに、「誰にでも自家製ビールはつくれる」と話した。

 製法は今年になって完成。ノンアルコールで、炭酸が入っていないため発泡しない。

 アルコール入りも開発中だ。そして炭酸入りも。そうなれば通常のビールにさらに近づく。

 粉末ビールは瓶入りビールに比べ、長距離輸送が容易で、その分コストが低減できる。主要市場はアフリカとアジア諸国を想定している。

 一方、ドイツ国内は500年間にわたって「ビール純粋令」に支配されてきた。普及はスムーズにはいかなさそうだ。

 フリッチェさんの醸造所のウェブサイトには、「特にドイツのピルスナー愛飲家やクラフトビール愛好家がわれわれの製品に最初は懐疑的な態度を示しそうなことは了解済み」とあった。

 純粋令では、ビールの原料は麦芽、ホップ、酵母、水のみと規定されている。この厳格なルールの下で、粉末ビールがそもそもビールとして販売できるのかも不透明だ。

 フリッチェさんは粉末の原材料を明かさなかった。ただ、世界は持続可能な問題解決の道を必要としており、そのために資することになると語った。

 現在、粉末ビールの販売に向け投資家と最後の詰めを行っている。4か月以内にも販売にこぎ着けられればと考えている。

■持続可能なビール

 粉末ビールは、欧州の研究所と共同で2年かけて開発された。フリッチェさんは、通常のビールに比べ、輸出コストは90%安上がりだと強調した。

 ビール1リットル当たりの環境への負荷を二酸化炭素(CO2)排出量で見ると、包装と輸送がその70%を占める。フリッチェさんは「われわれは世界初の持続可能な醸造所となることを望んでいる」と話した。

 また、通常のビール製造に平均2か月を要するのに対し、粉末ビールは研究施設で製造できるため時間も短縮できる。

 ただ、ドイツ国内の専門家は懐疑的だ。粉末ビールは「革新的」だが、「われわれ伝統的な醸造所の存立を脅かすことはなく、競争相手にさえならないだろう」と、バイエルン(Bayern)の民間醸造所協会のベネディクト・マイヤーさんは話す。

 別の醸造団体「Bier und Wir(ビールと私たち)」も、「ビールはパブや地元、パーティーで、気心の知れた友人たちと一緒に和気あいあいとした雰囲気の中で楽しむのが一番だ」とし、「家飲み用にほぼ限定される粉末ビールの出る幕はない」と強気だ。

 映像は4月撮影。(c)AFP/Clement KASSER