【6月22日 AFP】水深480メートルの海底で小型潜水艇に3日以上閉じ込められた経験のある英国人男性が22日、AFPのインタビューに応じ、北大西洋で沈没した豪華客船タイタニック号(RMS Titanic)の残骸見学ツアーに向かい消息を絶っている潜水艇の乗員乗客5人の安否を気遣った。

 ロジャー・マリンソン(Roger Mallinson)さん(85)は1973年、大西洋アイルランド沖の海底でロジャー・チャップマン(Roger Chapman)さんと共に小型潜水艇に閉じ込められたものの、生還した。史上最も深い水中での救助活動だった。

 マリンソンさんは当時を振り返りつつ、今回行方不明になっている乗客乗員5人の身を案じ、「非常に危険な状態と思われる。とにかく恐ろしい思いをしているはずだ」と語った。「救助を期待しているとすれば、全員が1か所に集まり、できる限りの音をたてていると思う」

 また「大西洋のど真ん中で、何の交信もなく置き去りにされてしまったことが全く理解できない」と述べた。

 21日にはソナー(水中音波探知機)が海中から「たたくような音」を感知し、不明者が生存している可能性に期待が高まったが、潜水艇の酸素残量が尽きる時間は迫っており、救助隊は捜索を急いでいる。

 マリンソンさんは「とてもストレスを感じた。非常に寒く、酸素を燃やしたくないから、とにかく暖かく着込んだ」と自らの経験を振り返った。「私は大きなセーターの上からオーバーオールを着た。ロジャー・チャップマンはセーターを持っていなかったから、たくさんの布をミイラのように巻きつけた」

 ようやく安心できたのは、ハッチが開き、見張るようにして取り巻いていたイルカの群れが去っていった時だった。

「イルカがいなくなって、助かったんだと分かった。イルカは丸々84時間、周りにいた。私たちのことを気に掛けて、何千頭も集まっていた。問題が起こっていると分かっていたんだ」

「水中電話で話そうとするたびに何千頭ものイルカが鳴くので、洋上に向かって話せなかった」

 経験を共有した元英海軍士官のチャップマンさんは、2006年に大英帝国勲章を受賞。20年に死去した。マリンソンさんは「仲間を失った」と惜しむ。「一つ良かったのは、葬儀で彼のためにオルガンを弾くことができたことだ」 (c)AFP