【7月23日 AFP】アラム語の一種シリア語は、伝統的にイラクやシリアのキリスト教徒の間で、主に家庭や一部の学校、教会で使われてきた。

 だが、長年の紛争に直面してきた両国ではより安全な国に移住する人も多く、シリア語話者コミュニティーは年々縮小している。イラクのキリスト教人口は過去20年で3分の1以下に減ったとされる。

 シリア語テレビ局「アルシリアニア(Al-Syriania)」のニュースキャスター、マリアム・アルバート(Mariam Albert)さん(35)は「家では確かにシリア語を話す。だが、徐々にではあるが、確実に消滅しつつあると感じる。残念ではあるが」と話した。

 同局は、シリア語の保存・継承を目指すイラク政府により4月に開設された。スタッフは40人ほど。映画や美術、歴史番組など、さまざまなコンテンツを提供している。

 アルバートさんは、自分たちの言語で放送されるテレビ局があるのは「重要」だと話した。

 番組の多くでは、シリア語の方言が使われている。しかし、ニュース番組では古いシリア語が話され、シリア語話者でも理解できない人が多いという。

 アルシリアニアの責任者ジャック・アンウィア(Jack Anwia)さんは、「エンターテインメント」を通した「シリア語の保全」が目的だと説明する。「シリア語はかつて、中東全域で使われていた」とし、イラク政府には「絶滅を防ぐ」義務があると語った。

「文化と宗教の多様性がイラクの素晴らしいところだ」

■「脇に追いやられている」

 イラクは「文明のゆりかご」と呼ばれ、シュメール(Sumer)やバビロニア(Babylonia)などの文明が栄えたことが知られている。

 今日では、シーア派(Shiite)のイスラム教徒が多数を占めているが、スンニ派(Sunni)やクルド人、キリスト教徒、ヤジディー(Yazidi)教徒など少数派もおり、アラビア語とクルド語が公用語となっている。

 米国率いる有志連合による2003年の侵攻以前は、約150万人のキリスト教徒がいたが、現在は40万人にまで減っている。多くは北部に住んでいる。

 クルド人自治区内アルビル(Arbil)にあるサラハディン大学(Salahaddin University)シリア語学科のカウサル・アスカル(Kawthar Askar)学科長は、シリア語は「脇に追いやられきた」と話す。「消滅してはいないが、消滅の危機にある」

 ここでは約40人がシリア語を学んでいる。首都バグダッドの大学にはより多くの受講生がいるという。

 イラク教育省のシリア語教育責任者によると、全国約260校でシリア語を履修できる。