【6月12日 AFP】数百年の歴史を誇る中東バーレーンの真珠産業。宝飾店に並ぶのは天然真珠だけだ。

 カタールの隣に位置する小さな島しょ国バーレーンは、1920年代から盛んになった真珠養殖を世界で唯一禁止している。

「大量生産はできない」と、家族で宝飾店を経営するファティン・マタルさんは言う。ダイバーから直接、天然真珠を仕入れており、ネックレス1本を完成させるのに5年はかかる。1本2万5000ドル(約340万円)もするような大きな作品になると、完成までに10年以上かかることもある。

 しかし、天然真珠には同じものが二つとない。それが魅力の一つだとマタルさん。「天然真珠を使ったジュエリーを持ったり、手に入れたりしようとする人は、誰一人、同じものを持っていないことを知っている」

 創業200年以上となるマタル家の店は、バーレーンで最も古い宝飾店の一つだ。昔は女性は働いていなかったという。

 小さな店内に並ぶブレスレットやネックレス、カフスボタンなどをさまざまな真珠が彩っている。「私たちの目標の一つは、真珠をもっと身近なものにすること」。女性向けの大きなアクセサリーばかりでなく、男性向けのデザインや若者の日常使いのアクセサリーなど「いろいろなラインを取りそろえている」という。

■真珠産業遺産の島

 他の湾岸諸国と同様、石油が発見される前のバーレーン経済は真珠の採取に頼っていた。

 ペルシャ湾(Persian Gulf)の伝統的な木造帆船「ダウ船」で、潜水士たちが何か月もかけて採った真珠は、中東の王族や欧州の高級服メーカーに珍重された。

 しかし、1930年代の世界恐慌と日本の養殖真珠の発達により、天然真珠の取引は大きく後退した。

 国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)によると、バーレーン北部のムハラク(Muharraq)島は「真珠産業の文化的伝統を完全に残す最後の例」であり、真珠床やダウ船が出航した港が世界遺産に登録されている。

■養殖真珠に「ショック」

 2017年に首都マナマの高層ビル群に開設された「バーレーン真珠・宝石用原石研究所(DANAT)」では、物理学や宝石学を駆使した研究や鑑定が行われている。

 所長のヌーラ・ジャムシア氏は「DANATを訪れるクライアントの中には、遺産相続品の中に養殖真珠が含まれていることを知ってショックを受ける人がたくさんいる」という。

 DANATは鑑定以外にも、天然真珠が採取される水域の状態を監視している。ジャムシア氏は懸念材料として気候変動を挙げる。

「私たちのチームは継続的に現場に通い、水温、水質、塩分濃度といったデータを収集し、これらの要因の影響を判定している」

  映像は今年3月に撮影。(c)AFP