【5月11日 東方新報】その可愛らしい表情から「ほほ笑みの天使」と呼ばれる小型クジラの一種スナメリ4頭(オス3頭、メス1頭)が中国一の大河、長江(揚子江、Yangtze River)に放流された。流域は長江デルタと呼ばれる中国で最も発展した地域。1980年代以降の河川の汚染などでスナメリは激減し、今では絶滅危惧種に指定されている。

 今回の放流は中国の研究機関が、長江近くの自然保護区で人間に守られて育ったスナメリを本来の環境に戻し、その子孫を残してもらうために初めて実施された。

 中国メディアが伝えた放流は大がかりなものだった。4月25日早朝、湖北省(Hubei)石首市(Shishou)の保護区から大型水槽で長江近くまで運び、そこに用意しておいた大きなビニールプールで短時間休ませてから、担架シートで保護して大人4人で持ち上げ、約10メートル離れた長江まで搬送。水深が腰くらいになったところで担架シートから降ろすと、スナメリは元気に泳ぎ出したという。

 保護区で15年間、スナメリを飼育している丁沢良(Ding Zeliang)さんは「これからは自分でエサをとっていかなければいけない。放流された場所には小魚が多い地域と聞いて少し安心した」と話す。放流前夜のエサは増量し、ビタミンを添加しておいたという。

 保護区に最初のスナメリが移送されたのは1990年だったというから、保護区で繁殖させて、長江に戻すのに30年以上かかっている。保護区では現在、スナメリ65頭が生存しており、放流された4頭が無事に生き延びられれば、長江に段階的に戻していく計画だ。

 スナメリは日本を含むアジアから中東の沿岸海域に広く生息する。成長すると体長1.5~2メートル、体重50~60キロになる。長江のスナメリは海水ではなく淡水に生息する亜種というのが定説だ。

 近年の研究によって、長江のスナメリは約4万年~5000年前に、海に生息するスナメリから分岐し、長江の環境に適応したとされている。2022年の政府調査で、スナメリは1249頭の生存が確認されている。一方、スナメリと同じように長江(揚子江)の淡水に適応して海から移り住んだヨウスコウカワイルカは2002年の目撃情報を最後に絶滅したと考えられている。

 ヨウスコウカワイルカなど希少種の絶滅や長江流域での水道水の水質悪化への住民の関心は高く、中国政府も汚染企業の取り締まりに本腰を入れている。スナメリは水質悪化やエサの減少だけでなく、漁網にかかって死亡することもあるため、2020年には長江での漁を10年間禁じる規制策も打ち出された。

 中国政府のなりふり構わぬ対策で「長江に魚なし」と言われるほど悪化した水質も徐々に改善してきたといわれている。長江に放流されたスナメリたちが生き延びられるかどうか。それは長江に水道水源や農水産物を頼る流域住民にとっても切実な問題なのである。(c)東方新報/AFPBB News