【5月4日 AFP】韓国ソウル近郊の高陽(Goyang)に住むイ・ジョンチョル(Lee Jong-chul)さんは昨年10月29日、ソウル市内の繁華街、梨泰院(Itaewon)で起こったハロウィーンを楽しむ人々が巻き込まれた雑踏事故で息子を亡くした。その後、ネットで誹謗(ひぼう)中傷を受けるようになった。

 事故では150人以上が死亡した。ジョンチョルさんの息子ジハン(Lee Ji-han)さん(24)もその一人だった。悲しみに打ちひしがれたジョンチョルさんは、メディアの前で政治家に対し対応を訴えた。

 その後イさん一家に起きたのは、米コネティカット州のサンディフック小学校(Sandy Hook Elementary School)の銃撃事件や、英国でニコラ・ブリー(Nicola Bulley)さんが失踪した事件の際と同様、遺族へのネットリンチだった。

 慰謝料を提示されたジョンチョルさんが笑っているように加工された画像や、ジョンチョルさんと北朝鮮とのつながりを指摘する書き込みが拡散された。AFPの検証では、いずれも事実ではないことが確認されている。一家は韓国のネット掲示板でバッシングの対象となったのだった。

 娘のガヨン(Lee Ga-young)さんは、「口にはできないような」誹謗(ひぼう)中傷を「山のように」浴びせられたと言う。

 自宅アパートにあるジハンさんの寝室は、事故が起きた10月29日にジハンさんが外出した時のままになっている。ドアには服が掛けられ、ベッドの上には読み掛けの本が置かれている。

「あの日を境に、私たちの生活はすっかり変わってしまった」と妻のチョ・ミウン(Cho Mi-eun)さんはAFPに話した。息子の声を聞くため、留守電のメッセージを今でも聞いている。

「夫は毎晩、ジハンが帰って来ないかと外に出て行く。時には何時間も。たばこを吸いに行くと言ってるけど、ジハンの帰りを待っているのだと私たちには分かっている」と語った。ジハンさんが亡くなり、ネットで誹謗中傷を受けるようになってから、ジョンチョルさんは何度か自殺を図ったとチョさんは明かした。