【5月7日 AFP】キューバの首都ハバナから南東へ約270キロ。中部サントドミンゴ(Santo Domingo)の蒸留所では、1世紀にわたるラム酒の伝統製法がしっかりと守られている。

 天井までたるが積み上がった「セントラル・ラム・ファクトリー(Central Rum Factory)」のセラーには、糖蜜、スパイス、熟した果実、アルコールの匂いが混じり合った芳香が漂う。

 醸造家になって20年というセサル・マルティさん(46)は今も毎朝、足を踏み入れるたびに微妙に変化する香りを楽しんでいる。

「キューバで最も古いラム酒や蒸留酒が、ここで辛抱強く眠っている」とマルティさんは誇らしげに語る。傍らのアメリカンオークたるに入っているのは、70年という歳月をかけて自然熟成させたラム酒だ。

 キューバに初めて近代的な蒸留器が導入されたのはサトウキビの栽培ブームが起きた19世紀だった。

 キューバ産ラムはサトウキビから砂糖を精製する際に残る粘性のある液体、糖蜜を原料とし、発酵・蒸留を経て独特の甘さを引き出す。

 キューバには現在、最も経験豊富な「ファースト・ラムマスター」が2人、女性2人を含むラムマスターが7人、マスター「見習い」が5人いる。それぞれの資格は厳正に定められている。

 技術的なプロセス向上のためには大学で科学を修めることが必須だが、知識や経験を次世代に伝えていくのは、いつの時代も口伝が基本だ。

 マルティさんも幼い頃からサトウキビ畑で過ごし、大学で科学を学んだ後、当時のラムマスターに雇われて国営蒸留所で働いた。ラムマスターになるまでに、見習いとして9年間過ごした。さらにラムマスターとして12年間働きながら科学論文を書いた後、キューバ史上最年少の「ファースト・ラムマスター」となった。

 マルティさんの才能は、仏高級ブランドグループLVMHのスピリッツ事業部の目に留まり、欧州向けの高級ラム酒造りを依頼された。

 果実や花のような味わい、ハーブの香りなど「キューバの田舎への旅」に誘うような絶妙なブレンドを探し求め、「新しい製品を生み出す」ことがマルティさんの原動力になっている。