【4月16日 AFP】カンボジアの巨大湖トンレサップ(Tonle Sap)で水上生活を送るシ・ボーンさんは、4歳の娘が汚染された水で遊び下痢になって亡くなったことを思い出し、涙をこらえた。

 トンレサップ湖の水上生活者は10万人に上る。12人家族のボーンさんの暮らすチョンプロレイ(Chong Prolay)村には、民家70軒と小学校1校があるが、衛生設備は皆無だ。

 地元の社会的企業「ウェットランド・ワーク(WW)」は、排せつ物などをろ過する「水上トイレ」の導入に取り組んでいる。だが、設置費用が高額のため、まだ一部の幸運な人しか利用できていない。

 漁業で生計を立てている水上生活を営む村人は、数世代にわたり湖に直接排せつしてきた。この水を調理や洗濯、水浴びに使っているため、下痢やコレラなどの水系感染症のリスクにさらされている。

■微生物マジック

 湖上と周辺合わせて100万人以上が暮らすトンレサップ湖は世界最大の内陸漁場だが、水上家屋2万軒には排せつ物を処理する仕組みが備わっていない。

 水・衛生問題に取り組む国際NGOウォーターエイド(WaterAid)によると、世界人口の約3分の1は適切なトイレを利用できない環境にある。また下痢は、5歳未満の子どもの主な死因となっている。

 WWは、水上トイレ「ハンディポッド(HandyPods)」が、シ・ボーンさんの村や同様の問題を抱える他国の人々の助けになると期待する。

 ハンディポッドは、小さな三つのタンクを排せつ物が通ることで、ろ過しきれいにする仕組み。「バイオフィルム」と呼ばれる微生物の集合体により病原体が除去された処理水が、湖に放出される。

 放出された水は飲み水にできるほどではないが、洗濯や調理には安心して利用できる。

 WWはチョンプロレイ村に水上トイレを19か所設置した。利用できる人は限られているが、好評だという。

 2か月前に水上トイレ設置の抽選に当たった漁師のルウン・ノブさんは、「ボトル入りのきれいな水は1本4000リエル(約130円)するので、料理や水浴びに使うためになんて手が出ない」とAFPに語った。「きれいな水は飲むためだけに買っている」

 WWは、欧州連合(EU)が支援する複数のプロジェクトを通じて、20の村にハンディポッドを100か所した。2025年までにさらに200か所への追加を目指している。(c)AFP/Suy SE