【4月2日 AFP】シリアの市場に、旬の味覚トリュフがぎっしりと詰まった袋が並んでいる。イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の攻撃の恐れや地雷などの危険もある中、命懸けで採取されたものだ。

 トリュフを売るムハンマド・サルハさん(31)は、「血まみれのごちそうだ」と話す。ムハンマドさんは「無事妻や娘の元に帰って来られるだろうか」と思いながら、毎日トリュフ狩りに出掛ける。

「私たちは命を危険にさらしている。でも、そんなことはかまわない。子どもを養いたいだけだ」と語るムハンマドさんの疲れた目の下にはくまができていた。

 毎年2月から4月の間、貧困にあえぐ人たちが高値で売れる珍味トリュフを探しにバディア(Badia)と呼ばれる広大な砂漠に出掛けて行く。一帯はISの潜伏場所となっている上、あちこちに地雷が埋まっている。

 シリア人権監視団(Syrian Observatory for Human Rights)によると、今年だけでもトリュフ狩りに訪れた市民130人以上が死亡した。ISの襲撃や地雷が主な死因だ。

 砂漠地帯で採れるトリュフは高品質で知られる。ハマ(Hama)の市場では、大きさや等級にもよるが、1キロあたり最高25ドル(約3400円)の値が付く。平均月収18ドル(約2500円)のシリアの人にとってはかなりの額だ。

「命の危険はあるが、トリュフ収穫時期の2か月でかなり稼げる」とサルハさんは苦笑した。

「競りだよ、競り!」。売り手が叫ぶと、大勢が集まって来た。1キロ当たり4.5ドル(約600円)で始まった価格は、すぐに2倍近くとなった。

 シリア中部から東部のイラク国境近くにかけて広がる砂漠では、さまざまな種類のトリュフが採れる。売り手によると、ハマ県とアレッポ(Aleppo)県の砂漠地帯で収穫された黒トリュフが、最も高値が付く。

 ダマスカスから来たという卸売業者は、最高級のトリュフを仕入れ、イラクやレバノンに輸出する人もいると話す。また、ヨルダン経由で裕福な湾岸諸国に密輸されることもあると報じられている。

 ユスフ・サッファーフさん(43)は、朝にハマまで来たベドウィン(遊牧民)から仕入れたトリュフを売っていた。中には服に血が付いていた人もいたという。

「トリュフ狩りをしていた家族を亡くした人もいる。でも、他に選択肢はないので続けている」と語った。「地雷があり、盗賊も出る。さらに広範囲にわたってISもいる」「でも、家族を養うために命を犠牲にするんだ」

■「賭け」

 メディアが繰り返し警告しているが、危険を冒してトリュフ狩りに行く人は後を絶たない。

 ジハード・アブドラさん(30)は、車でハマ県東部にトリュフ狩りに向かっていた時、地雷が爆発し、片脚を失った。

 今でも松葉づえをついてトリュフ狩りに時々出掛けるが、今年は兄弟が収穫してきたトリュフを売る方に時間を割いている。「片足を失ってから、何も失うものはない」「日々の糧を稼ぐため仕事は続ける。あとは神のみぞ知る」

 アブドラさんは、トリュフ狩りはトランプの賭けのようなものだと話す。

「勝つときもあれば、負けるときもある」「私はこの賭けを受け入れている」(c)AFP/Maher al-Mounes