【3月11日 AFP】ウクライナ・ザポリージャ(Zaporizhzhia)原子力発電所はもはや電力を生み出しておらず、ロシアの軍事基地に成り下がってしまった──。地元エネルホダル(Energodar)のドミトロ・オルロフ(Dmytro Orlov)市長(37)はAFPのインタビューで、こう嘆いた。

 ウクライナ南東部の同原発をロシア軍が占領したのは昨年3月4日。軍事侵攻開始後、まだわずかしかたっていなかった。

 国際原子力機関(IAEA)は、原発周辺が攻撃されている点を懸念。安全区域の設定を呼び掛けている。

 オルロフ市長は、「(ロシアは)1年に及ぶ占領期間中に欧州最大の原発を軍事基地に変えてしまった」と語った。

 ザポリージャ原発はこれまでに何度もトップニュースになり、1986年にウクライナで起きたチョルノービリ(チェルノブイリ、Chernobyl)原発事故と同じような大惨事が再現されるのではないかとの懸念が広がった。

 そうした大惨事に至るのを回避するためウクライ側は「反撃してこない」という「事実」にロシア軍は付け込んでいると、モルロフ氏は話す。

 原発周辺への攻撃をめぐっては、ウクライナ、ロシア双方が、相手側に非があると難じ合っている。今週、ザポリージャ原発はロシア軍による攻撃の影響で、外部電源を一時喪失した。

 オルロフ氏に言わせれば、ロシア軍は装備や弾薬、人員の安全を確保するため原発を「核の盾」として使っている。

 オルロフ氏によると、原発敷地内を含むエネルホダル市には現在、少なくとも1000人のロシア兵が駐留している。

 ドニエプル(Dnieper)川の川岸に広がる同市では、ロシアの侵攻に伴い、住人は5万3000人から1万5000人程度に減った。

■職員数、危険水域に

「占領部隊の大半は原発内に陣取っている。その方が安全だからだ」。オルロフ氏自身は昨年4月、ウクライナ支配下のザポリージャ市に拠点を移した。

 ザポリージャはエネルホダルから約120キロ離れている。しかし、オルロフ氏は、エネルホダルの住民と定期的に連絡を取り合っているという。

 エネルホダルからの住民の大量脱出は、同市自体に影響を及ぼしただけでなく、原発の人員態勢にも影を落としている。

 国営原子力企業エネルゴアトム(Energoatom)によれば、職員の半数近くが原発を去った。侵攻前には1万1000人を抱えていたが、残っているのは約6500人だ。

 同社がAFPに明らかにしたところによると、専門職数千人がウクライナ支配地域に逃れた。残った職員のうち、約2600人はロシアに「協力する」ことに同意した。

「人員面で大変な問題が起きている。そしてそれは安全面にも響いている」とオルロフ氏。人手不足の中、残った職員は休日も取れず過重労働を強いられているという。

 ザポリージャ原発はかつて、国内電力需要の20%を賄っていた。侵攻開始後の数か月間は、攻撃にさらされる中でも操業を続けていた。

 現在、ソ連時代に建造された6基の原子炉は停止され、もはや電力を供給していない。電力網にはまだつながっているが、それは施設内で必要な電力を賄うためだ。