【3月12日 AFP】中東レバノンの雪深い山の中。ユスフ・アキーキさん(60)は、千年続く伝統的な羊毛を使った帽子「ラッバーデ」を作っている。

 ラッバーデという名はアラビア語のフェルトに由来する。アキーキさんは、自分がラッバーデを作れる最後の職人だと話す。

 アキーキさんは、出身地である標高1200メートル以上の山の上にある村ハラジェル(Hrajel)でAFPの取材に応じた。

 ラッバーデは丁寧に手作りされている。羊毛を日干しした後、オリーブとローレルの油が配合されたシリア・アレッポ(Aleppo)産のせっけんと水を使って成形し、手でフェルトに仕上げる。

「こうすることで羊毛が縮み、パン生地のように延ばせるようになる」と語る。その手は、長年の作業で荒れている。時間がかかるため1日に3個作るのがやっとだ。

 防水効果もある帽子は機能的で暖かいが、普段使いする人はほとんどいない。

 購入するのは主に観光客や子ども時代を懐かしむレバノン人だ。かぶるのではなく家に飾る人が多い。

 ラッバーデのデザインは、古代フェニキア人がかぶっていた帽子が原型だが、フェニキア人のものは「もっと長かった」とアキーキさんは言う。

 アキーキさんは帽子の収入だけで暮らしていくのは難しいため、農業もやっている。顧客を増やすため、モダンなデザインも手掛けている。また、伝統の技をおいに伝授している。(c)AFP