【3月7日 AFP】スペイン在住のエステルさん(30)は11年前、同居していたパートナーにバルコニーから突き落とされそうになり、危うく死にかけた。

 近所の住民に助けられ、警察に行った。それ以前からパートナーに精神的な虐待を受けていたにもかかわらず、警察に通報したことはなかった。

 エステルさんは命拾いしたが、スペインではパートナーや元交際相手に女性が殺害されるケースがここ最近で急増している。

 同国では以前から、ジェンダーに基づく暴力を根絶する先駆的な取り組みが行われてきた。しかし、昨年12月にドメスティックバイオレンス(DV)で殺害された女性は2008年以降最多の11人を記録した。今年1月は7人に上った。

 多くの場合、当局はDV防止には至っていない。そして被害を受ける側も、手遅れになるまで危険信号を見落としていることが少なくない。

 エステルさんの場合、今にして思えば、交際相手の暴力的な傾向を示す危険信号はいくつもあった。交友関係を制限され、服装に口出しされ、夜は床でしか寝ることを許されないなどだ。

■ホットラインに年間10万2000件の相談

 非公表の場所にあるコールセンターで、十数人のオペレーターが「016ジェンダー・バイオレンス・ホットライン」に対応していた。

「こちら016。どうされましたか?」

 オペレーターの一人が、電話の向こうにいる女性を落ち着かせようと声を掛けていた。

「彼は今、あなたの隣に座っていますか?」

 2007年に開設されたホットラインには昨年、過去最多の10万2000件の相談があった。

 コーディネーターのスサナ・ガルベス(Susana Galvez)氏は、ホットラインの目的は女性に選択肢を提供することにあると説明する。「016は、暴力的な状況から抜け出す最初のステップです」と話した。

 スペインでは2004年にDVを禁止する法律が施行され、ジェンダーに基づく暴力を根絶する取り組みが優先的に進められてきた。

 だが、DV問題に詳しい検事のテレサ・ペラマト(Teresa Peramato)氏によれば、DVを受けた女性が相手を訴えるまでに要するのは「平均8年8か月」だ。地方在住者の場合は12年から20年かかる。

「よくあることだが、自分が暴力を受けている事実を被害者本人が一番認識していない」とペラマト氏は指摘する。

「暴力を受けても大したことではないと考え、相手からさらにひどい暴力を受けるのを恐れる一方で、司法制度を信用せず、経済的にも精神的にも(自分を虐待する相手に)依存してしまっている」からだと説明した。