【2月14日 AFP】ノルウェー最北に位置するスピルドラ(Spildra)島沖の北極海。フリーダイバーの世界王者アルチュール・ゲランボエリ(Arthur Guerin-Boeri)氏(38)が、氷のように冷たい水や暗闇に逆らうようになめらかに静かに泳ぐ。ついに肩が触れ合った。最も凶暴な海の捕食者の一つとされるシャチだ。

 暗くて深い海底から、シャチのひれが姿を現した。ゲランボエリ氏は、この瞬間を待ちわびていた。

 シャチはニシンを求め、クワナンゲン(Kvaenangen)フィヨルドにやって来る。そのシャチと泳ぐため、ゲランボエリ氏は15メートル以上潜った。

 ゲランボエリ氏はシャチと泳いだ後、AFPの取材に応じた。

「2頭は私のことを受け入れてくれた」「2頭とも息の合った動きをしていた。まるでバレエのように。後を追いたかったが無理だった。あまりにも素早く動くので、すぐにおいて行かれてしまった」

 ゲランボエリ氏は、フリーダイビングのダイナミック・アプネア(呼吸を止め何メートル潜水できるかを競う)部門で5度世界チャンピオンに輝いている。数分間呼吸を止めたまま、100メートル以上泳ぐことができる。

 ゲランボエリ氏は雪深いスピルドラからのダイビングに1週間を費やした。激しい嵐により、当初の予定よりシャチに会うのが数日遅れたという。

 視界が悪く、海水温が0度を下回る中でのダイビングとなったが、「忘れられない思い出になった」と話す。

「この環境では、疲れや寒さ、不安を忘れることができる。息継ぎのため水面に戻ると、氷に覆われた崖が目に入る。自然の美に囲まれている」

 ゲランボエリ氏は「フリーダイビングの本質に立ち返りたい。海中の世界を探検し、新しい発見をする。それが自分にとっての喜びだ」と熱心に語った。すでに、来冬スピルドラに戻って来る計画を立てている。(c)AFP/Francois D'ASTIER