【1月29日 AFP】インド西部ラジャスタン(Rajasthan)州ジョドプール(Jodhpur)郊外の村で、子ジカに哺乳瓶でミルクを与えていたゲバール・ラムさん(45)は、ヒンズー教ビシュノイ(Bishnoi)派の信者だ。動物の世話に心血を注ぎ、施設で保護した動物を野生に返す活動を続けている。

 15世紀に創始され、現在の信者数を約150万人とするビシュノイ派は、あらゆる生命を神聖視し、肉食を避け、枯れた木以外は伐採しない。動物や樹木を守るためなら自己犠牲もいとわないインドの「エコ戦士」だ。火葬では木を切り倒してまきを準備する必要があるため、土葬を習慣としている。

 言い伝えによると1730年、ラジャスタンの王は燃料となる木を切るためにビシュノイ村に家来を送った。すると、アムリタ・デビという女性が家から飛び出し、木の幹にしがみついた。だが、王の家来は容赦なく、女性の首と一緒にその木を切り倒した。

 デビの3人の娘たちが後に続き、同じく首を切られると、さらにビシュノイの老若男女、子どもたちまでもが次々と木に抱き付いては首を切り落とされた。村にある記念碑には、犠牲となった村人363人の名前が刻まれている。

「首をはねられるのは、木が切り倒されることに比べれば、大したことではない」という言葉を残したデビ。命懸けで守ろうとしたガフの木は今、ラジャスタン州の木となっている。

 村の女性シタ・デビさんは、アムリタ・デビを英雄だと言う。彼女の一家は厳格なベジタリアンで、調理に使用するのはまきではなく、牛ふんを固めた燃料だ。

 7人の子どもを持つデビさんは、親のいないレイヨウの子どもに母乳を与えたこともある。

「畑仕事をしていたら、レイヨウの子どもが野犬に襲われていたので、保護して家に連れて帰りました」「私のお乳を飲ませて、元気になったところで野生に返しました」と誇らしげに話した。

 ビシュノイの男性はほとんどが農民で、動物が傷つけられたり、狩りの獲物にされたりすることがないよう地域を見回っている。そのうちの一人、ランパル・バワドさんは自警団を立ち上げ、密猟を見つけたら「警察に訴え、犯人が罰を受けるまで事件を追及します」とAFPに語った。

 世界が気候変動と闘う今、「もっともっと木を植えるべきです」とバワドさんは言う。「自然と調和し、生きとし生けるものに優しくあるべきです」

 映像は2022年11月15日撮影。(c)AFP/Abhaya SRIVASTAVA