■薬局から消える抗うつ剤

 ロシアの政府寄り調査機関「世論基金(FOM)」によると、「不安」を感じている国民の割合は9月の動員令発表後、過去最高の70%近くに増加した。その1か月後に独立系調査機関レバダ・センター(Levada Centre)が行った調査では、この割合が90%近くとなった。

 コトワさんの周辺では、人々の不安が表面化し始めている。プーチン氏が先月、世界は第2次世界大戦(World War II)以降「恐らく最も危険で予測不可能な10年」に直面していると述べると、地元メディアは、コトワさんの近隣の住民が付近の地下駐車場に防空壕(ごう)を造り始めたと報じた。

 コトワさんは抗うつ剤を服用するようになり、症状が改善したという。同じ手段に訴える人は多く、当局の統計によると今年1~9月の抗うつ剤支出は前年同期比で70%増加した。

 心理カウンセリングサービス「ユートーク(YouTalk)」の共同設立者アンナ・クリムスカヤ(Anna Krymskaya)氏はAFPに対し、「動員令の発表以降、オンラインでの依頼が40%増加した」と説明。うつ病を心配する利用者は同期間で50%増えたという。

 神経科医のオレク・レビン(Oleg Levin)氏によると、多くの人が抗うつ剤を買いだめに走っている。首都モスクワの薬局では、最もよく処方される抗うつ剤の一つであるゾロフト(Zoloft)が姿を消した。

 心理学者は、紛争が長引くことで、ロシア人の精神衛生に長期的な影響が及ぶことを懸念している。

 モスクワの私立診療所メンタルヘルス・センター(Mental Health Centre)の療法士アミナ・ナザラリエワ(Amina Nazaraliyeva)氏は、帰還兵たちが心的外傷後ストレス障害(PTSD)やアルコール依存症に苦しむことは避けられないと指摘。こうした影響は長期にわたり続き、「国全体がこのトラウマに対処することになる」と述べた。(c)AFP/Marina LAPENKOVA