【11月6日 AFP】ベトナムの丘にたたずむ年代物のガソリンポンプ。スペイン・マドリードでは巨大なソンブレロがスタンドの頭上を覆い、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ(Dubai)では近未来的デザインのカラフルな給油機が目を引く。現代社会を象徴してきたガソリンスタンドが今、時代の流れとともに姿を消そうとしている。

 地球温暖化と闘う各国政府が脱炭素社会を模索する中、ウクライナ戦争でもたらされた燃料不足と価格高騰。ガソリン車やディーゼル車の廃止が近づいていることに今や疑問の余地はない。

 ガソリンスタンドの歴史は、20世紀初頭の自動車の台頭と密接に結びついている。中には、建物自体がランドマークとなったスタンドもある。

 例えば、米カリフォルニア州の砂漠にある「ブラックウェルズコーナー(Blackwell's Corner)」は、映画『理由なき反抗(Rebel Without a Cause)』で人気を博した米俳優ジェームズ・ディーン(James Dean)が最後に立ち寄ったスタンドとされ、その顔を描いた大きな看板が掲げられている。ディーンはここから40キロほど進んだ幹線道路で交通事故のため死去した。

 またガソリンスタンドのキャノピー(屋根)には、歴史的建築物に数えられているものもある。その一つが、英ロンドンから北へ170キロのレスターシャー(Leicestershire)州にある「レッドヒル(Red Hill)」だ。1960年代、ロゴにペガサスをあしらっていたモービル石油(Mobil、現エクソンモービル)のスタンドとして建てられたもので、六つの円形キャノピーを持つ未来的なデザインをしている。

 だが、欧州の地方部ではスタンドが次々と閉鎖に追い込まれている。1980年代初頭、フランスにはスタンドが4万1000か所あったが、昨年は1万1000か所を上回る程度にまでその数を減らした。

 コソボ東部のジラン(Gjilan)近郊では、廃業したガソリンスタンドが生い茂った植物の下に埋もれている。人類が炭素からの脱却を図る中で、ガソリンスタンドの宿命を予見しているかのようだ。

 対照的にカンボジアの首都プノンペンのあるガソリンスタンドは、「生態学的移行」というコンセプトをロジカルに捉え、燃料の代わりに植物を販売するガーデンセンターに生まれ変わった。(c)AFP/Jacques CLEMENT