【8月27日 AFP】中国沿岸から3キロほどしか離れていない台湾の金門群島(Kinmen Islands)は、人気の観光地だ。中国軍が今月、大規模な軍事演習を行った際も旅行客が遠のくことはなかった。

 金門島の浜辺でパドルボードを練習していたジョセフ・リンさん(35)は、台湾南部から来た元兵士だ。中国による演習は軍事力を誇示し、国内のナショナリズムに応えるためにすぎないと考え、3日間の旅行の予定はキャンセルしなかった。

「ロシアがウクライナで行っている戦争は、(中国の)習近平(Xi Jinping)国家主席への警告になったと思います。台湾はそう簡単には奪えないという」とAFPに語った。

 台湾海峡(Taiwan Strait)の緊張はここ数十年で最も激化している。米国のナンシー・ペロシ(Nancy Pelosi)下院議長が今月初旬、台湾を訪問したことに対し、中国政府は対抗措置として、かつてない規模の軍事演習を実施。台湾近海に複数のミサイルを発射し、戦闘機や軍艦を派遣して台湾封鎖のシミュレーションを行った。

 しかし、そんなさなかでも、金門では飛行機の便が通常通り運航。ツアー客や観光バスが観光スポットに押し寄せ、空港で土産物を買い込む客の姿が見られる。観測所から遠くを眺め、ビーチに並ぶ上陸阻止用のバリケードの合間から見える中国本土を撮影する観光客もいる。

 金門島は、1970年代後半までたびたび中国に砲撃されていた。観光客に開放されたのは1993年のことだ。戦時中の遺物や記念碑は観光の目玉となっている。

 台湾沿岸部の新竹(Hsinchu)から訪れたというバネッサ・チューさん(52)は、「(中国の侵攻を)心配しても仕方がありません。落ち着いて暮らしていればいいだけです」と語った。

 金門島の住民の多くは、貿易と観光を通じた長年の密接な関係から、中国に好意的だ。島の飲料水は、主に中国本土から供給されている。

 台湾は厳格な新型コロナウイルス規制を導入していることから、中国本土からの渡航は現在、禁止されている。

 だが、対岸の中国本土でも、人々の様子は台湾側とさして変わらない。砂浜では若い花嫁がカメラにほほ笑み、観光業者が客に双眼鏡を手渡していた。人々はその双眼鏡で、半世紀以上前に中国の砲撃で600人以上の死者が出た金門群島を眺めていた。