【6月4日 AFP】米俳優ジョニー・デップ(Johnny Depp)さんが元妻の米女優アンバー・ハード(Amber Heard)さんを名誉毀損(きそん)で訴え勝訴した裁判について、性暴力被害者の支援に取り組む人々は、裁判の一部始終がテレビ中継されたことなどを問題視し、ドメスティックバイオレンス(DV)被害者に「壊滅的な」影響を及ぼす可能性があると警告している。

 6週間にわたった裁判では、DV疑惑をめぐり両者が激しい法廷闘争を繰り広げた。争点となったのは、ハードさんが2018年に米紙ワシントン・ポスト(Washington Post)へ寄稿した「性暴力」に関する記事だった。

 記事ではデップさんへの直接の言及はなかったが、デップさんはこの記事により名誉が損なわれたと主張。陪審は1日、デップさん側の主張を強く支持する評決を下し、ハードさんに1035万ドル(約13億4000万円)の損害賠償支払いを命じた。

 ペニー・アズカラティ(Penney Azcarate)判事は裁判開始の数週間前、法廷に記者が殺到することを懸念し、裁判のテレビ中継を許可した。デップさんの弁護団はこの決定を歓迎した一方、ハードさん側は異議を申し立てていた。

 大学での性的暴行問題に取り組む米スタンフォード大学(Stanford University)法科大学院のミシェル・ダウバー(Michele Dauber)教授は、テレビ中継の許可は「サバイバー(性暴力被害者)にとってここ数十年で最悪の裁判所決定」であり、判事の性暴力に対する理解が不十分であることを示していると指摘した。

 ダウバー氏は、レイプ被害を訴えるハードさんがその生々しい詳細をテレビで証言することを強いられたのは「良心をゆるがすものであり、評決の支持・不支持にかかわらず、すべての女性とサバイバーの感情を害するものだ」と批判。性暴力被害者が公衆の面前で証言を強いられた例は、自身の記憶の限りでは1983年が最後だとした。

「被害者は今後、名乗り出たり、接近禁止命令を要請したり、被害経験を語ったりすることをためらうようになる」と指摘し、「助けを求めなかった結果として、女性が傷つけられたり、殺害されたりする可能性もある。この裁判は完全な失敗だった。壊滅的な影響を及ぼす可能性がある」とした。