■大統領になれば力使える

 フィリピン政府は2013年、弾圧があったことを認め、訴えを起こした約7万5000人のうち1万1000人超に賠償金総額98億ペソ(約220億円)を支払っている。マルコス元大統領がスイスに持っていた隠し口座の預金約7億ドル(約812億円)の一部が支払いに充てられた。預金は1995年、フィリピン政府に引き渡されていた。

 自身に暴行を加えたのは反マルコス派を監視していた「工作員」だったと、ロサレスさんは語る。中には、ロサレスさんが教えていた首都マニラの大学に講義を受けにきていた工作員もいたという。

 ロサレスさんは拷問を受けた後、軍の刑務所に移され、1か月後に解放された。

 1998年には下院議員に選ばれた。ロサレスさんを拷問した元民兵の一人も当選したという。

 2010年、フィリピン人権委員会の委員長に就任。1年後、フィリピン政府は拷問のほか残酷かつ非人道的、屈辱的な扱いや刑罰を違法とした。

 選挙管理委員会によると、今年有権者登録を行った人のうち、56%は戒厳令が解除された後に生まれている。

 マルコス元大統領の20年にわたる独裁政権に終止符を打ち、大統領一家を米国亡命に追い込んだ決起から36年が過ぎた。世論調査では現在、若い有権者を中心に支持を集めるマルコス・ジュニア氏が、マラカニアン宮殿(Malacanang Palace、大統領府)に最も近いとされている。

 マルコス元大統領は1989年、亡命先の米ハワイで死亡。一家は帰国が認められた。ロサレスさんは、一家は潤沢な資金を注ぎ込んで選挙戦を展開し、マルコス元大統領が犯した罪を人々の意識から消し去ろうとしていると指摘する。

「マルコス氏が(父親よりも)ましということにはならない。大統領になれば力を使える。(使い方を)覚えるだろう」と話した。

「行動しなくては」と、アムネスティのパロン氏は言う。「再び戒厳令が敷かれるのは見たくない」 (c)AFP/Cecil MORELLA