■長時間労働、コストの上昇

 リムさんの師匠、ネオ・チェン・レオン(Neo Cheng Leong)さん(61)は、海南チキンライスを30年作り続けている。

 ネオさんの一日は、仕込みから始まる。鶏肉を洗ってゆで、ショウガとエシャロットで香り付けした油で米を炒め、鶏のスープで炊く。カットした軟らかな鶏肉を香り高いご飯の上に乗せ、ニンニク入りチリソースと甘いダークソイソースで食べる。値段はたった3シンガポール・ドル(約240円)だ。

 ネオさんには、大学で学ぶ20代の息子が2人いる。息子たちは、屋台で働く両親が30年間どれほど苦労してきたかを見てきたため、父の後を継ぐ気はないという。

 リムさんは、ホーカー文化保護を目的とする政府のプログラムに参加している。ネオさんの下で2か月修行した後、審査員の前で料理を作らなければならない。無事修了すると、手厚い助成金で補助された価格で店を15か月間借りることができる。

 それでも、若いシンガポール人に給料の良いオフィスでの仕事を辞めて、ホーカーの料理人になってもらうには、コストの上昇や長時間労働など多くの課題が残されている。

 影響力のある批評家で実業家であり、人気のホーカーグルメガイド「マカンストラ(Makansutra)」を作成しているK・F・シートー(K.F. Seetoh)氏は、ホーカーはかつては、他の職につけない人がやる仕事だと思われていたと指摘する。

 60歳の母親とヌードル屋台を営むショーン・アウ(Shawn Aw)さん(32)は、ホーカーの仕事は重労働だが、1か月の稼ぎは約1000シンガポール・ドル(約8万円)しかないと話す。これは、政府統計に基づくシンガポールの月収の中央値4500シンガポール・ドル(約35万5000円)を大幅に下回っている。(c)AFP/Catherine Lai