■身分階層制

 数十万の兵士が戦争中、現在の非武装地帯(DMZ)の両側で捕虜となった。

 ジュネーブ条約(Geneva Convention)は、全ての捕虜の戦闘行為終了後の返還を義務付けている。しかし、北朝鮮側が韓国に戻したのはわずか8343人。2014年の国連人権報告書は、少なくとも5万人の韓国兵捕虜が休戦後北に残り、およそ500人が存命中としている。

 南北首脳会談が5回開かれたものの、捕虜の帰還は優先事項とされなかった。

 北朝鮮の住民は、その出自により身分が3階層に分類される。忠誠度の高い「核心」、「動揺」、そして「敵対」階層だ。米国の「傀儡(かいらい)」政権の元兵士として、戦争捕虜の地位は最底辺。この烙印(らくいん)は子孫代々引き継がれる。

「北朝鮮の採掘産業で、世代をまたぐ強制労働を見受ける」と、脱北者の証言を集めるソウル拠点のNGO、北朝鮮人権市民連合(Citizens Alliance for North Korean Human Rights)のヨアンナ・ホサニャク(Joanna Hosaniak)氏は語る。「捕虜の子や孫は、採掘地帯で暮らし、働くことを強いられているからだ」

 捕虜のうち半数だけに子どもや孫がいるとして、少なくとも6万から10万人が影響下にあると同氏は推計する。

 6月の裁判は、2人の元捕虜に対しそれぞれ2100万ウォン(約200万円)を支払うよう北朝鮮に命じた。原告の一人ハンさん(姓のみ公表)は炭鉱で40年間労働したが、この金額は1年あたり5万円に満たない。南北朝鮮に国交はなく、北側がこの判決を受け入れる可能性はない。

 ハンさんは、支払いは無意味と言う。「あの時間を金に換算するなんてできない」

■「共和国の胸に抱かれ」

「真の人権擁護」を掲げるが、国際社会から人権侵害を訴えられている北朝鮮は、休戦協定に従い全ての捕虜を送還したと言い切る。残っている捕虜がいるとすれば、「共和国(北朝鮮)の胸に抱かれ続ける」ことを希望しているから、と説く当局者もいる。

 元捕虜のイさんは、韓国政府の無為無策を責める。「自分は戻れたが、まだまだ帰れない人がたくさんいるのだ」

 映像は7月に取材したもの。(c)AFP/Sunghee Hwang